ウンシュウミカン未熟果で光老化マウスの肌が若返り!地域ブランド“三ヶ日みかん”、産学で収益アップに挑む

地域発

東京農工大学農学部の野村義宏教授らは、大量に廃棄されているウンシュウミカン未熟果の活用法を検討してきた。2019年には、紫外線照射によって老化したマウスの肌がウンシュウミカン未熟果で若返ったことを実験で明らかにした。未熟果に豊富に含まれるナリルチンやヘスペリジンによる効果だという。現在、静岡県の三ヶ日町にある食品卸売会社と共同で、ウンシュウミカン未熟果を原料とする機能性食品の開発を進めている。

ウンシュウミカンは、日本で生産されている柑橘類の約3分の2の割合を占める。1950~1960年代に、栽培面積は急速に拡大。1970年代に入ると生産過剰や消費多様化、グレープフルーツなど競合果実の輸入拡大によって価格が暴落した。ミカン果汁加工や品種転換が進められたが、1990年代初頭にオレンジの生果や果汁の輸入が自由化されると、国産柑橘類の一層の生産調整を余儀なくされた。

この間、品質向上と品種転換により価格と収入を向上させた農家が今日まで生産を続けているが、高齢化や後継者の不在、作業困難な分散傾斜農地などの問題に直面している。そこで、2000年代以降、これまで未利用であったウンシュウミカンの皮や未熟果の活用による収益改善も検討されるようになってきた。

参考:みかんの需給動向とみかん農業の課題

東京農工大学大学院の千年篤教授、山田祐彰教授、野村義宏教授は、フードランド(静岡県浜松市、中村健二社長)と共同で、三ヶ日町産のウンシュウミカンの低利用素材の有効活用法について研究している。三ヶ日町はウンシュウミカンの地域ブランド「三ヶ日みかん」の生産地で、β-クリプトキサンチンを豊富に含む同ブランドは、骨の健康維持について機能性表示が認められている。

未熟果や規格外のウンシュウミカンの活用法について研究が進められている(野村教授提供)

フードランドは、規格外のウンシュウミカンを皮ごとペースト化する技術を開発した実績を持つ。「ペースト化に続いて、低利用素材の用途の検討を進めた。注目したのが、摘果時に大量に廃棄されているウンシュウミカンの未熟果だった。未熟果には、ナリルチンやヘスペリジンといったフラボノイドが成熟果よりも多く含まれている」と話すのが、野村教授だ。未熟果に豊富に含まれるナリルチンには抗アレルギー作用が、ヘスペリジンには抗酸化作用・抗炎症作用があると報告されている。

野村教授は、ウンシュウミカン未熟果による肌の若返り効果について研究を進めてきた。「柑橘類の仲間であるハッサクの未熟果抽出物を光老化マウスに経口投与した結果、紫外線照射による光老化皮膚が改善したという報告がある。ウンシュウミカンにも同様の効果があると見ていた」というのが、野村教授が立てた仮説だ。

2017年、野村教授はヘアレスマウスを用いてウンシュウミカン未熟果による光老化皮膚の改善効果を検証した。実験では、21匹のマウスを使用。そのうち14匹のマウスには、週3回の紫外線照射によって肌の光老化を誘導した。7匹にはウンシュウミカン未熟果の凍結乾燥粉末と増粘剤の混合エキス(以下、ウンシュウミカン未熟果)を、7匹には増粘剤のみを胃ゾンデで1日1回投与した。なお、ウンシュウミカン未熟果に含まれる未熟果凍結乾燥粉末の量はマウスの体重1kgあたり200mgに調整された。一方、紫外線を照射してない7匹のマウスには、増粘剤のみを同様に投与した。マウスは通常エサと水を自由に摂取できる環境で、7週間にわたって飼育された。

「21匹のマウスの皮膚の水分量と蒸散量の測定日は、光老化マウスに対する週3回の紫外線照射の翌日とした。それぞれの平均値を各群の週の値とした」と、野村教授は実験概要について補足する。

光老化マウス群の皮膚は、被験物質投与3週め以降に紫外線を照射していないマウス群よりも皮膚水分量が少なくなり、水分蒸散量が多くなった。光老化マウス2群を比べると、ウンシュウミカン未熟果投与群の皮膚水分量は、6週め以降に対照群よりも皮膚水分量が高くなり、皮膚水分蒸散量が少なくなるという結果が得られた。

この結果について野村教授は、「紫外線照射でマウスの肌には慢性的な皮膚障害が起きたが、ウンシュウミカン未熟果の投与で保水力と角層バリアが改善されたことを意味する。ウンシュウミカン未熟果に含まれるナリルチンやヘスペリジンの抗酸化作用によって得られた効果だろう」と解説する。

果実の成熟化に伴う成分の変化なども検証されている

農工大の研究グループは現在、フードランドと共同で、ウンシュウミカン未熟果を原料とする機能性食品の開発に取り組んでいる。「食品に添加する形での利用を想定しており、ウンシュウミカン未熟果の構成成分や成分変動の解明、機能性成分の濃縮法の開発に取り組んでいる」と話しており、野村教授は多岐にわたる研究を精力的に進めている。

新たな用途開発の一方、フードランドでは、ウンシュウミカン未熟果をすでにポン酢の原料として活用している。機能性の解明によって未熟果の用途が増えれば、経済的な恩恵は地域全体へと広がる可能性がある。野村教授は、「生産・加工・販売といった経済活動全体にメリットのある商品開発に貢献ししていきたい」と最後に話してくれた。

長尾 和也

鳥取県出身。ライター。