九州の高級食材”スイゼンジノリ”が糖尿病性白内障を抑制!新たな機能性の発見で量産化にはずみ 東海大

地域発

東海大学農学部バイオサイエンス学科の永井竜児教授らは、スイゼンジノリ摂取による糖尿病性白内障の抑制効果を動物実験で初めて明らかにした。「β-カロテン」「リコピン」「ゼアキサンチン」といった抗酸化成分が、糖尿病性白内障の一因であるAGEsの生成や蓄積を抑制している可能性がある。新たな機能性の発見により、スイゼンジノリの量産化にはずみがつきそうだ。

スイゼンジノリは日本固有の淡水性ラン藻で、熊本市の上江津湖など清澄な水域にのみ生息する。九州では、250年以上前から高級食材として珍重されてきた。現在、熊本県や福岡県で養殖されている一方、水質悪化によって天然のスイゼンジノリの生息数は減少しており、絶滅が危惧されている。

貴重な資源であるスイゼンジノリは近年、機能性素材としても注目されている。抗酸化作用・抗炎症作用があり、塗布によるアトピー性皮膚炎の改善効果などが報告されている。ただ、高価で純粋培養が難しく研究のハードルが高いため、スイゼンジノリの持つ機能性の報告は限られているのが現状だ。

培養中のスイゼンジノリ

そうした中、2017年10月、東海大学生物科学研究科大学院生の須川日加里さんと、同所属の永井竜児教授によって、スイゼンジノリの糖尿病性白内障の抑制効果が発表された。永井教授は、糖質とたんぱく質が結合してできる「AGEs」という老化物質について27年以上、研究している。

「共同研究者である東海大学農学部の椛田聖孝名誉教授(当時は教授)は、阿蘇にある実習キャンパスでスイゼンジノリの養殖をしている。椛田名誉教授から相談を受け、研究を始めることになった。注目したのがスイゼンジノリの抗酸化作用だった。AGEsの生成や蓄積を抑制することで、糖尿病性白内障を予防できるのではないかと考えた」と、永井教授は研究の経緯を振り返る。

スイゼンジノリによる糖尿病性白内障の抑制効果は、1型糖尿病を誘発させたマウスと健康なマウスを用いた動物実験で検証された。通常のエサのみを与える健康なマウス6匹、通常のエサのみを与える糖尿病マウス9匹、スイゼンジノリ粉末が入ったエサを与える糖尿病マウス10匹の計3群を、エサを自由に摂取できる環境で3ヵ月間飼育した。飼育期間終了後には、マウスの眼球内にある水晶体の白濁値とAGEsの一種であるカルボキシメチルリジンの蓄積量が測定された。

その結果、通常のエサのみを与えた糖尿病マウス群は水晶体の白濁が進んでいたのに対し、スイゼンジノリ粉末が入ったエサを与えた糖尿病マウス群の水晶体は白濁進行が抑制されたことが確認された。

一方のAGEsの蓄積量は、健康なマウス群よりも通常のエサのみを与えた糖尿病マウス群は有意に多かった。スイゼンジノリ粉末が入ったエサを与えた糖尿病マウス群のAGEsは健康なマウスより多いものの、有意差がつかない程度に抑制された。また、糖尿病マウス群を比較すると、通常のエサのみを与えたマウス群よりもスイゼンジノリ粉末が入ったエサを与えたマウス群のほうが有意ではないが低かった。

この結果について永井教授は、「カルボキシメチルリジンは、酸化ストレスで生成が促進するAGEsだ。β-カロテン、リコピン、ゼアキサンチンといったスイゼンジノリの抗酸化成分が、カルボキシメチルリジンを抑制して糖尿病性白内障を遅延させた可能性がある」と解説する。

研究パートナーである椛田名誉教授は現在、スイゼンジノリの健康機能性のさらなる解明を進めるために、スイゼンジノリ養殖の大規模化を計画しているそうだ。「量産化のメドが立てばヒト介入試験を試みたい」と、永井教授は今後の展望を語る。

2017年には椛田名誉教授が会長を務める「水前寺のりくまもとの会(熊本県熊本市)」が発足しており、研究者・生産者・飲食事業者がスイゼンジノリの活用と保全を進めている。機能性食材の観点から需要が高まれば、難しいとされるスイゼンジノリの養殖にもはずみがつく。スイゼンジノリの機能性研究をベースとした“地域の新産業”が生まれるかもしれない。

長尾 和也

鳥取県出身。ライター。