熊本県立大学の友寄博子准教授による研究で、海苔の微粉末に脂質の吸収や血糖値の上昇を抑制する働きがあることが明らかになりつつある。焼却処分されることもある色落ち海苔の有効活用を目的とした研究の成果だ。色落ち海苔の有効活用が進めば、付加価値の高い商品開発や生産者の所得向上に繋がる。
全国4位の海苔の生産量を誇る熊本県。特産品として全国に出荷される海苔の一方、商品価値が低く、買い手のつきにくい“色落ち海苔”も少なくない。焼却処分される色落ち海苔は、数トン単位にのぼる年もあるそうだ。色落ちの予測や管理は、海苔の生育メカニズムにいまだ未解明のところが多く、難しいとされている。不定期で生産者に打撃を与える色落ちが、海苔の安定生産を妨げてきた。
熊本県立大学環境共生学部の友寄博子准教授は、色落ち海苔の有効活用を実現するために、健康機能性について研究している。色落ち海苔に悩まされてきた生産者から相談を受けたのがきっかけだ。地域資源の機能性の探索を研究テーマの一つとしている友寄准教授は、エゴマやバンペイユというザボンの機能性を解明してきた実績を持つ。
2018年、海苔微粉末抽出物の脂質吸収抑制作用がラットを用いた動物実験で検証された。実験では、加熱処理した海苔微粉末を使用。加熱処理後の海苔微粉末は抽出分離され、沈殿した部分をラットに投与する。海苔微粉末摂取群と蒸留水摂取群、それぞれ9匹ずつに分けられたラットのうち、海苔微粉末摂取群には、体重1kgあたり2mlのナタネ油と280mgの海苔抽出物を混合した溶液を投与し、1時間おきに静脈採血で血中中性脂肪濃度が測定された。両群ともに採血は投与後、計6回、実施された。
実験の結果、海苔微粉末摂取群の血中中性脂肪濃度は、投与1時間後から蒸留水摂取群よりも低くなることがわかり、有意差も認められた。
この結果について友寄准教授は、「海苔に多く含まれるポルフィランの作用と考えられる」と分析している。ポルフィランは水溶性食物繊維の一種で、血中中性脂肪低下作用、血中コレステロール低下作用、血糖値上昇抑制作用などがある。「エキスの量を増やしていけば、より高い脂質吸収抑制作用も期待できるのではないか」と、友寄准教授は“適量”についても検証を進めていく方針だ。
なお、実験に用いられた海苔微粉末は、加熱処理によって水溶性食物繊維の割合が多くなることが組成分析で明らかになっているという。商品化を見据えている友寄准教授は、「食品として販売することを想定した場合、殺菌など日持ちの面からも加熱処理の製造工程が含まれるのはいいことではないか」と話している。
現在、友寄准教授は色落ち海苔の血糖値の上昇抑制作用について研究を進めている。2019年の食品科学工学会で発表された動物実験では、熱水抽出した色落ち海苔エキスに、血糖値の上昇をもたらす脂肪の分解を阻害する「インスリン様作用」があることが明らかになった。
「血糖値の上昇を抑制する働きのある成分は、ポルフィランを抽出する過程の残渣に多く含まれることがわかってきた」と解説する友寄准教授。海苔のポルフィランを売りにした商品はすでに存在しているが、それらとは異なる独自性のある研究として一連の取り組みは発展している。
色落ち海苔の機能性が明らかになって新たな商品化が実現すれば、海苔生産者の所得の安定にも繋がることが期待される。現在、海苔の生産者の数は減少傾向にあり、廃棄物から価値を創出する研究の進展が待ち望まれている。