宮崎特産の日向夏みかん、骨粗鬆症の予防・改善に役立てて!日向夏ジュース、病院食に採用 宮崎大

地域発

宮崎県は、「日向夏」の生産量日本一を誇る。日向夏には、骨粗鬆症の予防・改善に役立つ機能性成分が含まれていることがわかってきた。長年の研究成果をもとに、宮崎県農協果汁(宮崎県児湯郡川南町、柗本拓眞社長)は日向夏ジュースを開発。2018年5月以降、宮崎大学医学部附属病院の入院患者向け一般食としても採用されている。2006年から日向夏の研究に携わってきた宮崎大学医学部産婦人科の山口昌俊講師(病院教授)に話を聞いた。

リンク:共同研究成果「毎日おいしく日向夏」を 附属病院の入院患者一般食に導入(宮崎大学プレスリリース)

日向夏は、江戸時代末期に現在の宮崎県にある個人邸内で発見された宮崎県原産の柑橘類。ほかの多くの柑橘類とは異なり、甘みのある白皮もおいしく食べることができる。種子が少なく食味のいい日向夏は、「みやざきブランド」として認定されている。

日向夏は宮崎県を代表する特産品の一つ

宮崎県は、ブルーベリーの葉やニガウリなど、残渣などの廃棄物や未利用部位を含む地域資源の機能性研究に力を入れている都道府県の一つだ。日向夏については、戦前から宮崎大学農学部で品種改良の研究が推進されてきたものの、機能性に関する研究は行われていなかった。

「宮崎大学が掲げる『世界を視野に地域から始めよう』というスローガンを実現するためにできることはないかと、同僚と雑談していたのが研究のきっかけ。柑橘類からは多くの健康機能性が報告されている。身近にある特産の日向夏を調べていくことになった」と話すのが、女性医学・東洋医学・臨床遺伝学を専門とする山口講師だ。

「世界を視野に地域から始めよう」というスローガンを実現するために目をつけたのが身近にある日向夏だった

山口講師は2006年、更年期女性のモデルとした卵巣摘出マウスに、体重の1/200量の日向夏エキスを投与する実験を行なった。2週間後にX線写真撮影したところ、エキス投与群のマウスは骨密度の改善が認められた。「骨粗鬆症の血中マーカーは測定していなかったが、骨密度を改善させる物質が存在するのではないかと直感した」と、山口講師は偶然の発見を振り返る

動物実験で骨粗鬆症に対する効果が示唆されたものの、有効成分の特定などは容易ではなかった。山口講師によると、「有機溶媒による抽出を試みたが、生物活性物質は得られなかった。水溶性物質が効いていると考え、多糖類の一種である“アラミドガラクタン”が作用していることをようやく突き止めた。分子量の大きい多糖類の抽出や分析は難しく、10年ほどの時間がかかった」とのことだ。

加工された日向夏ジュースは宮崎県大学医学部附属病院の病院食のメニューとして採用されている

有効成分がわかると、2016年にはヒト試験が実施された。閉経後の骨粗鬆症の30人の女性ボランティア(59〜64歳、平均61歳)のもと、そのうち10人に日向夏エキス入りのジュース125㍉㍑を1日1本、1ヵ月間飲んでもらった。飲用後には、1ヵ月間のウォッシュアウト期間を設け、ジュース飲用群10人を対照群20人のうち10人と入れ替え、30人全員がジュースの飲用を経験するまでくり返した。ジュース飲用の結果は、1ヵ月後と3ヵ月後に計測された。

試験参加者の血液を分析した結果、ジュース飲用から3ヵ月後に骨粗鬆症の因子の1つである「低カルボキシル化オステオカルシン」という値の改善が確認された。「有効成分であるアラミドガラクタンは、とても多くの糖が連なって構成されている物質だ。仮説の段階で、まだまだ詰めていく必要はあるが、連なりの中の一部分が破骨細胞を抑制し、また別の部分が骨芽細胞を活性化することで、骨代謝や骨粗鬆症の改善効果をもたらしているのではないか」と、山口講師は日向夏エキスの作用機序を分析している。

日向夏エキスで骨が強くなることがレントゲン写真でも確認された

宮崎県農協果汁によって2018年に商品化された日向夏ジュースは宮崎県大学医学部附属病院の病院食のメニューとなり、地域住民の健康増進に役立てられている。日向夏研究の今後の展望について山口講師は、「宮崎県民のために、宮崎県の特産品の付加価値をさらに高めていきたい。地域に根ざした大学として、地域に貢献していくつもりだ」と熱を込める。なお、山口講師による日向夏の最新研究情報は、2018年5月に論文発表されている。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。