長崎県では、緑茶三番茶とビワやツバキの葉を揉捻して発酵させた茶を商品化するなど、廃棄物や未利用部位を組み合わせることによって、地域資源に価値を付加する研究が進められている。間引き後に廃棄されている“未熟ミカン”も、三番茶との相性がいいことがわかってきた。新たな健康茶の誕生に期待がかかる。
ウンシュウミカンは、国産の柑橘類で栽培面積や出荷量が最も多い日本の主要農産物。長崎県はウンシュウミカンの代表的な産地の一つで、全国5位の出荷量を誇る。同県では、多様化する消費者のニーズに対応するために独自のウンシュウミカンの育種に力を入れている。一方で、廃棄コスト削減に向けた取り組みも推進されている。
「全国的な問題といえるが、長崎では間引きされたウンシュウミカン、いわゆる未熟ミカンが大量に捨てられている。廃棄コストを削減するために、県の生産者と協力しながら未熟ミカンの新たな用途について研究してきた。未熟ミカンには“ヘスペリジン”という機能性成分が豊富に含まれており、そこに目をつけた」と話すのは、福岡工業大学工学部生命環境化学科の長谷靜香准教授だ。
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長谷准教授は2011年以降、酸味と苦味が強すぎて食用には向かない未熟ミカンを機能性食品の原料として活用する研究に携わってきた。これまでの共同研究により、緑茶三番茶と未熟ミカンを混合発酵させるメリットが明らかになっている。長谷准教授によると、「ビワやツバキなどの前例にならい、緑茶三番茶とブレンドした未熟ミカンの特性を調べたところ、ヘスペリジンの可溶性が高まることがわかった。吸収率が上がることを意味する」とのことだ。
ヘスペリジンの可溶性が増した未熟ミカン混合茶の健康効果を検証するために、動物実験も行われている。メタボ予備軍を想定した実験で、過食傾向があるものの病気ではないラットのエサに、混合茶の凍結乾燥粉末を混ぜて投与するというものだ。
「過食ラットは通常、脂質濃度が高めであるが、1ヵ月後に解剖したところ、肝臓における中性脂肪濃度やコレステロール濃度は上昇することなく、各数値の有意な改善が認められた。短い実験期間だったため血液に対する影響は穏やかなものだったが、半年1年と、混合茶の摂取を継続すれば、生活習慣病に関連する数値の改善に繋がるかもしれない」と、長谷准教授は試験結果を分析する。
長谷准教授は2019年4月以降、凍結乾燥粉末ではなく、「お茶」としての飲用時に近い形で効果を検証するために、熱水抽出したエキスを用いた実験を続けている。マウスの呼気を分析することで、ヘスペリジンによる脂質代謝改善のメカニズムを明らかにしていく方針だ。生産者と連携しながら、商品開発も進めていく。
農業廃棄物の利用は、廃棄にかかるコストの削減と新たな収益の増加に作用する。緑茶三番茶をベースに、ビワの葉、ツバキの葉、未熟ミカンなどを組み合わせることで廃棄物に価値を付加するユニークな研究が広がれば、これまで目を向けられることなく廃棄されてきた地域資源の活用法や機能性が全国で新たに発見されるかもしれない。