ハチミツに含まれる難消化性オリゴ糖「マルトビオン酸」の新たな健康効果が明らかになった。中部大学応用生物学部の大西素子教授らは、マルトビオン酸に破骨細胞の分化を抑制して骨成分の流出を防ぐ働きがあることを確認。ヒト試験における骨成分の流出抑制効果も報告した。一連の研究データを根拠として共同研究先であるサンエイ糖化(愛知県知多市、太田隆行社長)から届出された機能性表示食品は2020年9月、消費者庁に受理された。大西教授らは現在、マルトビオン酸のミネラル吸収促進効果や骨密度改善効果についても検証を進めている。
ハチミツは、糖質、水分、アミノ酸、有機酸、ビタミン、ミネラルなどで構成されている。全体のおよそ80%と構成成分で最も多いのが糖質で、そのうちの70%をブドウ糖と果糖が占めており、残りの10%には25種類以上のオリゴ糖が含まれている。近年注目を集めているハチミツ成分の一つが、オリゴ糖の一種であるマルトビオン酸だ。
マルトビオン酸は、グルコースにグルコン酸が結合したオリゴ糖で、消化管酵素で分解されにくい性質を持つ。難消化性オリゴ糖であるマルトビオン酸には、便の水分を保持させることで便通を改善する働きや、カルシウムやマグネシウム、鉄や亜鉛など、体内に取り込まれにくい難溶性ミネラルの吸収を促進する働きがあることがわかっている。
中部大学応用生物学部応用生物化学科の大西素子教授は、2016年からマルトビオン酸の骨の健康維持機能について研究を続けてきた。「カルシウムの貯蔵庫である骨は、骨を作る骨芽細胞による骨形成と、骨を壊す破骨細胞による骨吸収がくり返される骨代謝によって維持されている。腸にとどまってミネラルの吸収を促すマルトビオン酸が骨代謝に与える影響に興味があった」と話すのが、大西教授だ。
国内における骨粗鬆症の患者は現在、1300万人と推計されている。骨代謝のバランスが崩れて骨吸収が骨形成を上回ると、骨密度は低下していく。女性ホルモンの減少は骨粗鬆症を引き起こすリスクの一つとして知られており、閉経後の10年で女性の骨密度は急激に減少することがわかっている。
大西教授の研究室では、細胞実験、動物実験、ヒト試験によって骨に対するマルトビオン酸の健康維持効果が検証されつつある。大西教授によると、「マウスの大腿骨から採取した骨髄細胞を使用した細胞実験では、マルトビオン酸を添加することで破骨細胞の分化が抑制されるという結果が得られた」とのことだ。
2018年には、中部大学の40〜60代の女性職員が参加するヒト試験が実施された。試験参加者にマルトビオン酸カルシウムを含む顆粒を1日4g、4週間摂取してもらったところ、閉経後1年以上経過していると自覚する33人では、尿中に排泄される「デオキシピリジノリン(DPD)」「尿中Ⅰ型コラーゲン架橋N-テロペプチド(u-NTx)」という骨由来コラーゲン成分の量が試験前よりも有意に減少するという結果が得られた。
大西教授によると、「この結果は、マルトビオン酸の継続摂取によって骨成分の流出が抑制されたことを意味する」とのことだ。そして、共同研究先であるサンエイ糖化(愛知県知多市、太田隆行社長)は一連の研究結果を根拠にマルトビオン酸を関与成分とした機能性表示食品の届出を行い、2020年9月、消費者庁に受理された。これにより、「骨の成分の維持に役立つ」などの表示が可能となった。
最新の研究では、牛乳とマルトビオン酸を同時に摂取することで、体内に取り込まれるカルシウム量がより増加することも明らかになっているそうだ。「骨粗鬆症の予防には、成長期における最大骨量の確保と、骨量がピークとなる20代以降の骨密度の維持が重要だ。カルシウムは必須栄養素であるものの、日本人のカルシウム摂取量はどの世代でも不足しているため、吸収効率を上げるという考えも重要となる。今度、マルトビオン酸による骨密度の改善効果をヒト試験で確認していく予定だ」と大西教授は話している。