信州大学農学部発ベンチャー企業のウェルナスは、ナスに豊富に含まれる「コリンエステル」を有効成分としたサプリメント原料の普及に力を入れている。同学部食品分子工学の中村浩蔵准教授のこれまでの研究成果を、社会に還元していく方針だ。これまでの研究の成果は3月7日、「毎日みらい創造ラボ」が主催するプレゼンテーションの場で発表された。
ウェルナスの代表を務めるのは、中村准教授の教え子の小山正浩農学博士。「高校時代から上が180㍉ほどの度高血圧だった。睡眠障害の悩みもあった。薬にはまだ頼りたくないという思いがあり、いろんなサプリメントを試してきた。効果があったのが、中村准教授が研究していたコリンエステルだった」と、自身の体験が2017年の起業のきっかけになったと振り返る。
ナス由来コリンエステルを開発した中村准教授は、そばの新芽の乳酸発酵エキスの血圧降下作用を発見した人物でもある。降圧効果をもたらす有効成分がコリンエステルであることを特定していた。
研究の末、中村准教授は、ナスには発芽そば発酵エキスの5倍以上のコリンエステルが含まれていることを突き止めた。トマトやピーマンと比較すると、ナスに含まれる同物質の量は1000倍以上になるという。
現在、コリンエステルを抽出するためのナスは高知県から調達している。ナスの生産量日本一を誇る高知県では、作付面積・生産量・出荷額の減少は続き、生産者の高齢化も進んでいた。
“ナスプロジェクト”は、研究のコアとなる信州大学をはじめ、高知県農業技術センター、高知県安芸郡農業者、農研機構、北海道情報大学などのコンソーシアムで進められてきた。中村准教授は、「栄養化に乏しいと思われがちなナスの需要喚起には、機能性という高付加価値化が不可欠である」という考えがあったと話す。
ナスから抽出したコリンエステルを用いてラットを対象とした試験を行ったところ、高血圧の改善効果が確認された。血圧が高めの男女12人を対象にしたヒト介入試験でも、血圧の低下が認められた。「食品としての安全性が高く、血圧が下がりすぎることもない」と、小山社長は研究の成果に胸を張る。
同社は今後、サプリメント原料の販売に力を入れていく。自社商品の開発も進め、テストマーケティングを重ねていく方針だ。