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秋田県立大発ベンチャー、血糖値上昇を防ぐコメ開発!新品種の難消化性デンプン高含有米“A6”販売へ

2019年2月に設立されたスターチテック(秋田市、中村保典社長・秋田県立大学名誉教授)が本格始動する。同社は、秋田県立大学で研究・開発したジャポニカ由来高アミロース米など、高付加価値米やその加工品の販売を手がける秋田県立大学発ベンチャー企業。同大学の生物資源科学部に所属しながら取締役を務め、難消化性デンプン(RS)が豊富なジャポニカタイプのイネ「A6」系統の開発に携わってきた藤田直子教授に話を聞いた。

A6(左)と秋田63号(右)

秋田県は、全国3位のコメの生産量を誇る。「秋田経済においてコメは主要な農作物であるが、全国的な消費量の減少に伴いコメの価格が低下し、農家は苦戦を強いられている。秋田県では、本学が中心となって高付加価値米の品種のラインアップの充実を進めている」と話すのが、秋田県立大学生物資源科学部の藤田直子教授だ。

スターチテック社の取締役でもある藤田教授は、RS高含有米の健康機能性の解明に取り組んできた。RSには、血糖値の上昇抑制作用や整腸作用があると報告されている。「イネのデンプン合成メカニズムを解析する過程で、コメが蓄えるRS量を格段に高める方法を発見した。糖質制限などでコメが敬遠されがちな昨今のニーズに応えられると考え、新品種登録を目指してきた」と、藤田教授は研究の経緯を振り返る。

2015年、RS高含有米の血糖値の上昇抑制作用が、ヒト介入試験で検証された。RS高含有米170gとうるち米160 gを、健康な20人の試験参加者に食べてもらい、血糖値と血中インスリン濃度を比較するという実験だ。

試験参加者は、RS高含有米を摂取した後、1週間の間隔をあけてうるち米を摂取。計2回の試験日は、いずれも前夜から絶食してもらった状態でコメを食べてもらい、摂取前と摂取30分後、45分後、60分後、120分後の血糖値と血中インスリン濃度を測定した。

試験の結果、30分後、45分後、60分後、120分後の血糖値を繋いでできる「血糖値の上昇曲線下面積(AUC)」は、高RS含有米を摂取したときのほうがうるち米を摂取したときよりも有意に小さかった。この結果は、食事によって増えた血糖の総量が少なかったことを意味する。一方の血中インスリン濃度についても、うるち米よりRS高含有米摂取後のほうが低いという結果が得られた。「RSが血糖値の上昇を抑制することで、糖の取り込みに必要となるインスリンの量が少なくて済む。インスリン抵抗性の予防にも繋がるはずだ」と、藤田教授は試験の結果を解説する。

米粉入りうどん「ゆりの舞」

あきたこまちの10倍以上の難消化デンプンを持つ高RS含有米「A6」は品種登録出願済みであり、出願公表されれば、しかるべき品種名が公開される。スターチテック社は、創業から間もないものの、すでに品種登録出願公表済みとなっている高アミロース米の「あきたぱらり」「あきたさらり」を、それぞれピラフやチャーハン、リゾット向け精米、米粉入り乾麺として販売する。さらに、外食事業者の調理素材や冷凍惣菜の原材料・米飯・菓子・パン・麺類などの食感改良剤として販売促進している。2020年は、A6の販売にも力を入れていく方針だ。

スターチテック社の主力商品の一つ「あきたぱらり」

2018年、コメの生産数量の目標を割り当てる制度が廃止された。 「水田フル活用ビジョン」が策定され、コメの生産量を抑制する政策は転換された。今後、産地は主体的にコメを生産・販売していく必要がある。競争の激化が懸念される中、価格競争から抜け出せるかは、大きな経営課題となっていくはずだ。コメの高付加価値化は利益の確保のために重要となる。“健康”という新たな市場の開拓も、コメ農家が生き残る活路の一つとなる。

長尾 和也

鳥取県出身。ライター。