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美作地域の“アピオス”、豊富な水溶性食物繊維で食後高血糖予防!高齢者向け食品の開発目指す

美作大学生活科学部食物学科の渡邉理江准教授は、岡山県津山市で栽培されている北米原産のホドイモ「アピオス」の機能性研究を進めている。2019年に行われた動物実験では、アピオスの乾燥粉末を与えることで、豊富な水溶性食物繊維によって糖の吸収が緩やかになり、食後高血糖予防が期待されることが明らかになった。現在、同市からの研究助成を一部受け、地元企業と連携しながら高齢者向け菓子などの食品を開発する動きがあるそうだ。

北米原産のマメ科ホドイモ属の多年草「アピオス」。“世界三大健康野菜”といわれている

アピオスは、北米原産のマメ科ホドイモ属の多年草。和名では、「アメリカホドイモ」と呼ばれる。ピンポン球ほどの大きさで粘り気のある可食部は、クリやサツマイモのような甘味を持つ。ヤーコン、キクイモとともに“世界三大健康野菜”といわれるアピオスの可食部は栄養価がとても高く、インディアンの間ではスタミナ源とされてきた。日本では明治時代から栽培が始まり、主に東北地方で普及した。

「健康野菜として知られているアピオスは、糖尿病・肥満・高血圧・慢性便秘・アレルギー性疾患といった病気や、肌荒れ・虚弱体質・産前産後の体力低下に効くと伝えられてきた。私の研究室では、2017年から糖尿病に対するアピオス可食部の効果を研究している」と話すのは、美作大学生活科学部食物学科の渡邉理江准教授だ。2015年に、同大学のある津山市を含む美作地域でアピオスの栽培を始めた津山工業原料(岡山県津山市、尾関茂之社長)から機能性研究の相談を受けたのがきっかけだった。

美作大学生活科学部食物学科の渡邉理江准教授はアピオスの可食部の血糖値上昇抑制効果に注目

アピオスの機能性に関する国内外の文献を渡邉准教授が調べたところ、アピオスの花弁や葉を用いた研究で血糖値の上昇抑制効果はいくつか報告されていたものの、可食部を用いた研究での科学的知見は乏しく、有効成分や作用機序は明確になっていなかった。渡邉准教授によると、「民間伝承薬的な位置づけに止まっていたアピオスは、研究対象として興味深かった。2018年の成分分析では、ダイズやジャガイモなどと比べて、津山市で栽培されているアピオスには水溶性食物繊維が豊富かつ安定的に含まれていることがわかった。“水溶性食物繊維によって食後血糖値の上昇が抑制される”という仮説のもと、実験を進めた」とのことだ。

2019年、食後血糖値の上昇抑制効果を検証する動物実験が始まった。実験は、高齢マウスを対象として行われた。マウスは20%アピオス含有食餌群とコントロール食餌群に分けられ、自由にエサを食べられる環境で1年以上飼育され、体重やHbA1c値などが測定された。その結果、HbA1c値はコントロール食に比べてアピオス食で低い傾向を示したが、体重はアピオス食でやや増加していた。

津山産アピオスに豊富かつ安定的に含まれている水溶性食物繊維によって血糖値の上昇が抑えられることが確認された

さらに各群にて、膵臓にあるランゲルハンス島という組織の大きさ、組織を構成する細胞の数が調べられた。ランゲルハンス島では、血液中の糖をエネルギーとして筋肉や脂肪に取り込むために必要なインスリンというホルモンが生合成・分泌されている。インスリンには、弱い細胞増殖作用もある。血液の分析のほか、体重の変化や膵臓のようすを観察することで、体内の血糖コントロールに関して、ある程度の予測ができるそうだ。膵臓を調べてみると、各食餌群での体重変化に比例してランゲルハンス島の細胞数も増加することがわかった。

渡邉准教授によると、「食後血糖値の上昇抑制効果は、水溶性食物繊維が糖の吸収を緩やかにして得られたものだろう。体重変化に比例して、ランゲルハンス島の細胞が増えていたことから、なんらかの成分の影響でインスリンの分泌量が増えている可能性が否定できず、水溶性食物繊維との相乗効果も考えられる。アピオスのおもしろいところは、長期摂取によって体重を大きく減少させることなく適度に保ちながらも、HbA1c値を低く維持できるところだ。高齢者や病中病後の体調が弱っている人に向いている食材なのではないか」と解説する。渡邉准教授は今後、水溶性食物繊維以外の機能性成分の特定を進め、該当成分によるインスリンの分泌量の変化などを調べていくそうだ。

研究と並行して、菓子など、アピオス乾燥粉末を原料とする高齢者向け食品の開発を目指す動きもある。「甘味があるアピオスは菓子の原料に適している。糖の吸収を緩やかにする働きのほか、インスリンの分泌促進など新たな作用も明らかにできれれば、食後高血糖を予防する商品として津山・美作地域のアピオスを売り出せるのではないか」と、渡邉准教授は語る。2019年には、津山工業原料でアピオスの蒸留酒「美作塊(ほど)」が開発されたばかりだ。津山産アピオスの特性を生かした“機能性菓子”など新商品の誕生が待望されている。

長尾 和也

鳥取県出身。ライター。

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長尾 和也