Categories: 大学発

タクアン漬けの血圧上昇抑制効果を確認!GABA、ペプチドなどを含む伝統食品、落ち込んだ需要回復へ

タクアン漬けは、高血圧を引き起こすのか──。高崎健康福祉大学の松岡寛樹教授は、タクアン漬けに含まれるGABA、ペプチド、ポリフェノールなどの健康効果に注目している。過去に行われた動物実験では、タクアン漬けによる血圧の上昇抑制効果のほか、腎臓の保護効果が確認された。落ち込んだタクアン漬けの需要回復につながる可能性を秘める研究について、松岡教授に話を聞いた。

タクアン漬けは、ダイコンの漬物の一種。脱水処理したダイコンを塩に漬け込んで製造される。日干ししてから塩に漬け込まれるものは「日干しタクアン漬け」、重石と塩を用いて脱水しながら漬け込まれるものは「塩押しタクアン漬け」と呼ばれている。日干しタクアン漬けは江戸時代に普及し、1940年ごろには安価に製造できる塩押しタクアン漬けが開発された。

タクアン漬けに血圧上昇抑制効果や腎臓保護効果などがあることがわかってきた

タクアン漬けは日本を代表する漬物の一つだが、「塩分の多い食品を取りすぎると高血圧になる」という説が広まって生活様式が変化してきたこともあり、“昔ながらのしょっぱい食べ物”である漬物は、健康志向の高い消費者から敬遠されるようになった。実際、1989年に約22万トンだったタクアン漬けの年間生産量は、2019年には約4万トンに落ち込んでいる。製造者は、タクアン漬けの減塩に取り組むことで消費者のニーズに応えようと改良を重ねてきた。

高崎健康福祉大学健康福祉学部の松岡寛樹教授は、従来の説に捉われることなく、タクアン漬けの機能性研究を続けてきた。「2009年に、日干しタクアン漬けと塩押しタクアン漬けに含まれている成分を分析したところ、アミノ酸の一種であるGABAをはじめ、連なったアミノ酸であるペプチドや抗酸化物質であるポリフェノールがいずれのタクアン漬けにも含まれていることがわかった。これらのうちGABAには、興奮性ホルモンであるアドレナリンの分泌を脳内では抑制し、抹消血管においては血管収縮作用を持つノルアドレナリンの分泌を抑制する働きがある。血圧など健康への影響は興味深かった」と語るのが、松岡教授だ。

タクアン漬けには血圧の上昇抑制効果があるという仮説が立てられた。松岡教授は、「GABAは、塩押しタクアン漬けより日干しタクアン漬けに多い。血圧の上昇抑制効果は日干しタクアン漬けが優れていると考えていたが、GABA以外の因子の作用も考慮する必要がある。動物実験では、2つのタクアンの効果を比較した」と話す。

2013年に行われた実験では、高血圧自然発症ラットが対象とされた。松岡教授によると、「効果の有無をまずは確認するために、体重1kgあたり5.0mgのGABA含有量に調整したタクアン漬け混合飼料と、体重1kgあたり1.0mgのGABA含有量に調整したタクアン漬け混合飼料をラットには試験期間中、毎日食べさせた。人間に換算すると、高用量と定義した前者は非現実的な摂取量、中用量と定義した後者はタクアン漬けを好む人が食べる量を想定している。結果、両方のタクアン漬けで収縮期血圧の上昇抑制効果が確認された」とのことだ。その後、より少ない量で効果を検証する実験が続けられた。

中用量と低用量の効果を比較する実験では、高血圧自然発症ラット30匹は通常の水と通常のエサを与える5匹、10ppmのGABAを含む水と通常のエサを与える5匹、通常の水と日干しタクアン漬けが含まれるエサを与える10匹、通常の水と塩押しタクアン漬けが含まれるエサを与える10匹に分けられた。日干しタクアン漬けを与える群と塩押しタクアン漬けを与える群は、それぞれ中用量群5匹と低用量群5匹の2群にさらに分けられた。低用量は、体重1kgあたり0.2mgのGABA含有量に調整された。

ラットはエサを自由に食べられる環境で14週間育てられ、毎週、各群の収縮期血圧が測定された。その結果、GABA含有水を摂取した群のほか、日干しタクアン漬けの群、塩押しタクアン漬けの低用量群および中用量群は、有意な血圧の上昇抑制効果が確認された。一方、日干しタクアン漬けの低用量群は、血圧の上昇抑制効果が認められなかった。

研究成果を発表する高崎健康福祉大学の松岡寛樹教授

松岡教授は、「2種類のタクアン漬けのGABA含有量は同量という条件で実験を行った。低用量群でも効果があった塩押しタクアン漬けには、血圧上昇を引き起こすACEという酵素の活性を阻害するペプチドが日干しタクアン漬けより多く含まれているのかもしれない。一連の実験では、腎臓の保護効果も示唆された。ポリフェノールの抗酸化作用なども関係しているのではないか」と実験結果を解説する。これらの結果は2017年、『Food&Function』に掲載された。

「高血圧につながると思われていたタクアン漬けが、血圧の上昇抑制や腎機能の改善に役立つことがわかってきた。塩分の取りすぎに注意は必要だが、みそでも同様の結果が報告され、タクアン漬けを含む日本の伝統食品のイメージが変わっていくことを期待している。今後、健康効果をウリにしたタクアン漬けもできるのではないか」と、松岡教授は語る。タクアン漬けの機能性研究は、伝統食品の再評価を促す可能性を秘めている。

長尾 和也

鳥取県出身。ライター。

Share
Published by
長尾 和也