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奈良県産柿の加工品開発にはずみ!柿ポリフェノール“プロアントシアニジン”が血糖値の上昇を抑制 近大

近畿大学の米谷俊教授は、加工品としての利用が限られている柿の新商品開発に向けて、地元企業と健康機能性の研究を進めている。米谷教授が注目しているのが、血糖値の上昇を抑制する働きのある柿ポリフェノールだ。

奈良県は、全国2位の柿の生産量を誇る。“柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺”という有名な俳句があるように、奈良県民にとって柿は身近な果物だった。柿の消費というと、生食が一般的だ。近年、奈良県では柿の輸出にも力を入れているが、輸送中の鮮度の維持ためにかかる物流コスト削減が課題の一つとなっている。一方で、賞味期限を長く取れる柿の新たな加工品の開発も求められている。

奈良県は全国2位の柿の生産量を誇る(奈良県五條市提供)

柿の新たな用途の発掘に取り組んでいるのが、近畿大学農学部食品栄養学科の米谷俊教授だ。健康機能性という切り口で高度付加価値化を図りながら、近隣企業の新商品開発をサポートしている。パートナー企業は、干し柿をはじめ、モナカやヨウカン、ケーキなど柿商品を製造・販売している石井物産(奈良県五條市、石井和弘社長)と、インテリア業界大手メーカーの住江織物(大阪府大阪市、吉川一三社長)だ。

「2012年に奈良県に赴任したときから、特産品である柿について研究してきた。柿の消費拡大によって地域の活性化を図るべく、石井物産や住江織物とともに柿の新たな可能性を模索してきた」と、米谷教授は奈良県産柿のブランド化を推進してきた。

干し柿に栗餡を詰めた和菓子「郷愁の柿」(石井物産提供)

米谷教授が目をつけたのが、柿ポリフェノールだった。柿には、抗酸化作用、血圧低下作用、血糖値の上昇抑制作用、発がん抑制作用、冠動脈性心疾患改善作用などがあると報告されている「プロアントシアニジン」というポリフェノールが豊富に含まれている。食品中の機能性成分による糖尿病予防を研究テーマの一つとしている米谷教授は、柿ポリフェノールの血糖値の上昇抑制作用にフォーカスして効果を検証することにした。

2016年、ラットを用いた動物実験で、柿ポリフェノールが血糖値に与える影響が検証された。マルトース溶液のみを投与する8匹、マルトース溶液と柿ポリフェノール抽出物の低濃度溶液を投与する8匹、マルトース溶液と柿ポリフェノール抽出物の高濃度溶液を投与する8匹の3群にラットを分け、血糖値と血中インスリン値の推移を測定するという実験だ。

ラットに投与するマルトース溶液は、3群ともに体重1kgあたり10mlに設定。柿ポリフェノール抽出物の低濃度溶液群には1kgあたり250mg、高濃度溶液群には1kgあたり500mgの柿ポリフェノール抽出物を投与し、3群の血糖値と血中インスリン値は、投与直後と投与から15分後・30分後・60分後・120分後に測定された。

実験の結果、低濃度溶液群と高濃度溶液群の血糖値は、投与から15分後・30分後・60分後においてマルトース溶液のみを摂取した群より有意に低かった。血中インスリン値は、低濃度群では投与直後と30分後および60分後において、高濃度群では15分後・30分後・60分後においてマルトース溶液のみを摂取した群より有意に低かった。低濃度群と高濃度群の比較では、血糖値とインスリン値の両方とも有意な差はなく、摂取量は1kgあたり250mgのポリフェノールで十分と考えられた。

さらに、同様の方法で、マルトースをグルコースに置き換えて実験が行われた。低濃度群と高濃度群の血糖値は、グルコースのみを摂取した群よりも30分後と60分後で有意に低かった。血中インスリン値については、高濃度群において曲線下面積(AUC)がグルコースのみを摂取した群よりも有意に低かった。この実験でも低濃度群と高濃度群で差がなく、1kgあたり250mgで十分と考えられた。

「柿ポリフェノールは、血糖値の上昇を緩やかにすることがわかった。消化管内で糖質の分解を阻害する働きと、グルコースの吸収を抑制する働きがある」と、米谷教授は実験結果を解説する。

動物実験の後には、20代のボランティア20人を対象としたヒト介入試験も実施された。ボランティアはマルトースと柿ポリフェノールを経口摂取する10人、マルトースとプラセボを経口摂取する10人に分けられ、投与前の血糖値と、投与15分後から120分後までの血糖値が15分おきに測定された。なお、投与するマルトースは150kcal、柿ポリフェノールは3gに設定されている。

試験の結果、60分後と75分後で、柿ポリフェノール摂取群の血糖値はプラセボよりも有意に低いという結果が得られた。AUCも、摂取群のほうがプラセボよりも有意に低かった。また各群35人での再試験が、各群の年齢幅は20代から60代で行われ、同様に有意な結果が確認された。米谷教授によると、「柿1個分の柿ポリフェノールの摂取で、血糖値の上昇を抑制できると見ている」とのことだ。

新たな機能性素材としての柿の活用を考えている米谷教授は、「血糖値の上昇抑制作用が期待されている柿の葉茶への添加などが考えられる。柿の葉茶は奈良県では日常的に飲まれている身近なものだ」と話している。住江織物で販売されているサプリメント「柿ダノミ」に続く新商品が開発される日は近いかもしれない。

奈良県産の柿を使用した新たな商品が誕生するかもしれない

2019年には、奈良県産の柿がアメリカに初めて輸出された。すでに、香港や東南アジアへの輸出も実現しており、海外でも奈良県産の柿は好評だ。ただ、鮮度を維持するために必要となる輸送コストの課題は残ったままだ。健康機能性研究をベースとした加工品の開発によって、海外展開の構想を持つ地域の打ち手が広がる可能性がある。

長尾 和也

鳥取県出身。ライター。