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野ぶどう研究継承!肝硬変・間質性肺炎など線維症に続く薬効、徳島大で抗アレルギー作用確認

民間伝承薬として日本で古くから親しまれてきた野ぶどう。肝臓にいいといういい伝えがあり、実際に、研究の第一人者である獨協医科大学日光医療センターの中元隆明初代院長らのチームは、組織の線維化を伴う肝硬変のほか、肺線維症など間質性肺炎の改善に野ぶどうエキスが有効であることを報告してきた。

『日本未病システム学会雑誌』の中で野ぶどうエキス(かんぐれーぷ)の薬効が最後に報告されたのが2003年。それから15年のときを経て、徳島県の中部に位置する勝浦郡上勝町で推進されている野ぶどうを活用した新たなプロジェクトが注目を集めている。編集部は7月、徳島を訪ねた。

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Nab社の上勝八重地工房に貼られているポスター

山の上にある古民家に工房を構えるNab(徳島県勝浦郡上勝町、池田久社長)は、地元の生産者と連携しながら野ぶどうの栽培を2014年から進めてきた。「日本の里100選」に選ばれている八重地集落に広がる棚田が、その舞台だ。農薬や化学肥料を使わない自然農法のもと、美しい棚田で野ぶどうは育てられている。

世帯数約20という小さな集落で暮らす生産者(兼業農家)の一人は、「俺は78歳だが、ここでは若いほうだ。このままだと、あと10年もしたらこの集落はなくなる。新しい産業を創っていく必要がある」と危機感を口にする。かつて林業で栄えた町の再建プランの一つとして選ばれたのが、野ぶどうの商品開発というわけだ。上勝町では地域住民の協力のもと、株分けしながら少しずつ野ぶどうの生産量を増やしてきた。

上勝町産野ぶどうの特産品化の取り組みについて、生産者(右)から話を聞いている「日本の身土不二」の緒方(左)

野ぶどうエキスの薬効を医薬品開発と同じプロセスで研究

野ぶどうは夏の終わりから秋にかけて紫色の実をつける。「ブドウのイメージから果実が注目されがちだが、機能性成分はツルに多く含まれている」と話すのは、プロジェクトリーダーであるNab社の池田社長だ。天日干しや殺菌の工程を経てツルから抽出された野ぶどうエキスは、世界最先端の研究施設といわれる徳島大学内の藤井節郎記念医科学センターに持ち込まれた。エビデンスが必要という池田社長の発案だ。

最先端の研究機器が揃っている藤井節郎記念医科学センターが野ぶどう研究の拠点

成分分析や機能性研究は、日本ヒスタミン学会の会長を務める徳島大学大学院の福井裕行特任教授(医歯薬学研究部分子難病学分野)が手がけている。「国から認可された治療法も民間療法も完璧ではない。地元徳島の天然物の薬効などもトータルで検証しながら、医学のレベルを上げていきたい」というのが、福井特任教授の理念だ。上勝町産野ぶどうエキスの薬効は、分子薬理学に基づき、医薬品開発と同じ手法で研究されている。

天日干しされている野ぶどうのツル。殺菌の工程を経た後、熱水抽出されてノブドウエキスができる

先行研究ではアルコール抽出した野ぶどうエキスが使用されていたのに対し、徳島大学では熱水抽出した野ぶどうエキスが研究対象となっている。品質に“違い”がなければ、アルコールを使わない分だけコストが下がるほか、世界規模で市場を見たときに、宗教上の問題でアルコール抽出された食品を口にできない人に対しても野ぶどう商品を提供できるというメリットもあるからだ。

これまでの実験で、エキス中の成分や量に差異はなく、熱水抽出でもアルコール抽出と同等の効果が得られる可能性が示唆されている。簡単にいうと、熱水抽出された野ぶどうエキスも肝硬変や肺線維症の改善に役立つかもしれないということだ。

福井特任教授はアレルギーに着目し、野ぶどうエキスの研究を続けてきた。くしゃみや鼻水を伴う急性のアレルギー性鼻炎では、ヒスタミンH1受容体(H1R)とIL -9という遺伝子発現シグナルが亢進している状態にある。一方、鼻閉や好酸球性炎症を伴う慢性のアレルギー性鼻炎の発症には、IL -33という遺伝子の発現が関与しているそうだ。

野ぶどうの機能性研究について解説する徳島大学の福井特任教授(右)とNab社の池田社長(左)

福井特任教授によると、「細胞実験では、野ぶどうエキスがH1R遺伝子の発現亢進を抑制することがわかった。動物実験では、鼻粘膜のH1RとIL -9遺伝子のほか、IL -33の発現亢進を抑制し、アレルギー性鼻炎の症状改善が確認された」と解説する。阿波番茶との併用で効果が増強するという、興味深い結果も得られている。研究の成果は2017年の「第56回日本薬学会」で発表された。

徳島大学では現在、アレルギーの患者を対象としたヒト試験の準備が進められている。「さまざまな健康食品が溢れているが、今後は医薬品にできるレベルが求められる」と、福井特任教授が“食品の機能性研究の最低限”として定めるハードルは高い。有効成分の特定が次の課題となる。

肝硬変・間質性肺炎・アレルギー、野ぶどうエキスの守備範囲は

分子レベルで肝硬変や間質性肺炎など組織の線維化への有効性が解明される可能性もある。現時点では仮説の域を出ないものの、アレルギー改善のメカニズムの流れの中に、コラーゲンの線維化抑制に働きかけるプロセスがあると福井特任教授は見ている。今後、有効成分や作用機序が明らかになれば、動脈効果の予防・改善など、野ぶどうエキスの“守備範囲”が広がることになりそうだ。

上勝町で栽培されている野ぶどう。取材時の7月、果実は青く小さかったが、夏の終わりから秋にかけて紫色に成熟していく

今後の展開について池田社長は、「これまでのデータをもとに、野ぶどうエキスを売り込んでいきたい。日本で増えている病気は今後、東南アジアなど海外でもさらに増えていくだろう。上勝町産野ぶどうの認知拡大を目指していく」と話している。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。