日本におけるオリーブ栽培発祥の地として知られる香川県小豆島。オリーブの生産量は、現在も日本一を誇る。日本製粉は兵庫県立大学や筑波大学と共同で、小豆島産オリーブ果実エキスの機能性研究を続けている。オリーブオイルの搾りかすから抽出されるマスリン酸には、運動効果を高める働きがあることがわかってきた。近年、生産量が増えている国産オリーブの新たな活用法の一つとして注目を集めている。
超高齢社会に突入した日本で問題となっているのが、「ロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)」だ。ロコモとは、運動器の障害によって要介護になるリスクが高い状態のことをいう。日本では、4700万人がロコモに該当するという試算もある。
こうした背景の中、日本製粉では、国産のロコモ対応素材の探索を続けてきた。「地中海食は体にいい」ということをヒントに、同社が目をつけたのが小豆島産のオリーブだった。
日本製粉イノベーションセンターの間和彦副センター長によると、「炎症を抑制する成分をスクリーニングしていったところ、オリーブの果実や、オリーブオイル搾油後に出る“ポマス”と呼ばれる搾りかすに、トリテルペン類の一種でこれまでに実用化されていないマスリン酸が同定された」という。ポマスに含まれるマスリン酸は微量だったが、新たに開発した抽出製造法を用いて、マスリン酸を10%以上含むオリーブ果実エキスの開発に同社は成功した。
高齢化率が50%を超え、50年後の日本といわれる愛媛県忽那諸島の中島で2015年、軽度のひざ関節痛を自覚している29人(平均年齢70.7歳)を対象に、ヒトコホート予備調査が実施された。
参加者にマスリン酸30㍉㌘が含まれるオリーブ果実エキスのゼリーを1日1本、16週間飲んでもらったところ、ひざの痛みやふだんの生活の状態などを評価する「VAS」「SF-8」という尺度で改善が認められた。「精神的QOL、身体的QOLのいずれも向上していた」と間副センター長。社員やその家族147人(20〜80歳)を対象に実施された社内モニター試験では、ひざのほか、腰や肩の痛みの緩和も確認されているという。
興味深いのは、運動効果を高めるオリーブ果実エキスの働きだ。内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)、文科省革新的イノベーション創出プログラム(COI)では、それぞれ兵庫県立大学、筑波大学と共同研究が実現した。
兵庫県立大学による研究では、高齢者を「運動する群」「運動に加え、オリーブ果実エキスを摂取する群」の2群にわけ、12週間後の成果を測定した。その結果、オリーブ果実エキスを飲んでいた群では骨格筋量が有意に増加し、握力と体脂肪も同様に、有意な改善が認められた。
筑波大学の研究では、関節痛の緩和効果が確認されている。「全身振動トレーニング」に加えてオリーブ果実エキスの摂取をすることで、階段昇降能力やひざ関節の筋力が増すことがわかったのだ。
間副センター長によると、「動物細胞を使った基礎研究では、マスリン酸には、炎症反応の鍵を握るNF-κBという転写因子の活性を抑制することや、筋肉の繊維、骨の形成を促進する働きがあることが確認されている。ヒト試験でも有効性が認められており、加工に伴う品質の安定性はもちろん、安全性の問題もない」とのことだ。
現在、静岡県や鹿児島県、埼玉県や群馬県、山梨県でもオリーブ栽培地域が増えている。国産オリーブの生産量が少しずつ増加する中、搾油後の搾りかすのロコモ対応素材としての活用は、地域の新たな特産化を目指すオリーブ生産者の収益性向上策としても期待される。