北海道空知郡南幌町にある株式会社スリービーは、タモギタケの生産量日本一を誇る。タモギタケはヒラタケ目ヒラタケ科の担子菌で、鮮やかな黄金色の傘が特徴的なキノコだ。北海道の短い夏、深い森の奥でしか出合うことができないため、“幻のキノコ”と呼ばれてきた。近年、タモギタケに含まれる“天然の抗がん成分”が注目を集めている。
スリービー社がタモギタケの人工栽培技術の開発に成功したのは1985年のことだった。北海道立旭川林産試験場(現・北海道立総合研究機構)と共同研究を行い、食品機能性と生産効率の高い「エルムマッシュ291」という種菌を開発。その後、タモギタケとしては初となる登録品種のキノコとなった。安全性はもちろん、栄養価の高さや使い勝手のよさなどが評価され、現在、北海道から九州まで35道府県の学校給食に採用されている。
タモギタケには、多糖類やアミノ酸が豊富に含まれている。免疫賦活作用で知られる「β(1‐3)グルカン」や、抗酸化作用の強い水溶性アミノ酸「エルゴチオネイン」が代表的なものだ。ほかにも、体内で合成できない必須アミノ酸をはじめとする20種類以上のアミノ酸、ビタミンB1、B2、ミネラルなどがバランスよく含まれている。
スリービー社のタモギタケの機能性は、札幌医科大学や北海道大学など産学共同ネットワークによって研究されてきた。これまでに報告されてきた実績として、「抗腫瘍作用」「抗酸化作用」「血圧降下作用」「血糖値上昇抑制作用」のほか、「セラミドによる皮膚保湿作用」「抗アレルギー作用」などが挙げられる。
タモギタケが脚光を浴びるきっかけとなったのが、第96回アメリカ癌学会総会(2005年4月)で発表された札幌医科大学の加藤和則准教授(現・東洋大学理工学部生体医工学科教授)による「タモギ茸エキスによる抑制性T細胞の制御・新規抗腫瘍効果について」という研究成果だ。タモギタケを熱水抽出した後、濃縮をかけて得られるエキスに、がん細胞の増殖抑制効果、マウスの生存期間の延長効果があると報告された。タモギタケ濃縮エキスは、免疫力の低下を引き起こす制御性T細胞の増加を抑えて抗腫瘍効果を発揮することがわかったのだ。
Cancer Research:American Association for Cancer Research
2012年には、北海道大学大学院の綾部時芳教授の研究グループが、タモギタケの新たな研究成果を報告した。綾部教授は免疫学の権威で、粘膜免疫における抗菌ペプチドの働きを研究している。これまでに、小腸にあるパネート細胞が「αディフェンシン」という抗菌ペプチドを分泌することを解明してきた。
αディフェンシンには外敵を見分ける能力があり、病原菌を攻撃し、腸内環境の改善にも貢献している。最近では、クローン病や潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患との関係も明らかになりつつある。炎症性腸疾患には、αディフェンシンの分泌や機能異常が影響している可能性が指摘されるようになってきたのだ。
綾部教授が行った動物の細胞実験では、タモギタケ濃縮エキスにαディフェンシンを増やす働きがあることが確認された。腸内環境を改善させて、小腸に備わる腸管免疫の活性化させる効果が期待されています。
タモギタケ濃縮エキス使用した製品として、「バイオゴッド」や「黄金茸の力」が販売されている。バイオゴッドはタモギタケ濃縮エキス100%で、黄金茸の力には、タモギタケ濃縮エキスのほかに、エンテロコッカス・フェカリスFK-23菌が配合されている。いずれも、北海道独自の食品機能性表示制度「ヘルシーDo」に認定されている。
スリービー社におけるタモギタケの人工栽培
スリービー社では、バイオ技術を駆使した先進システムを用いてタモギタケを人口栽培している。北海道産カラマツのオガクズをベースとしたキノコ培地を培養瓶に充填してから殺菌。その後、厳しく管理された無菌環境のもと、自動制御ロボットで種菌を接種すると、黄色の傘の株が培養瓶からあふれ出すように現れてくる。約20日間で、タモギタケは出荷されるサイズまで成長する。その間、生育に最適な空調管理を徹底している。