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認知機能の維持にケルセチン豊富なタマネギを!“さらさらゴールド”機能性表示届出へ 農研機構

農研機構の小堀真珠子研究領域長らの研究で、“さらさらゴールド”というタマネギに含まれるケルセチンが加齢に伴い低下する認知機能の維持に役立つことが明らかになった。認知機能に対するケルセチンの有効性が、ヒト試験で確認されたのは初めてのこと。研究成果は2021年5月、『J Clin Biochem Nutri』という学術誌にオンライン掲載された。さらさらゴールドについては現在、認知機能維持に関する機能性表示届出の準備が進められている。

タマネギの収穫量日本一を誇る北海道。北海道産タマネギのうち、40%はオホーツク管内のきたみらい地域(温根湯・留辺蘂・置戸・訓子府・相内・上常呂・北見・端野)から出荷されている。栽培を手がけるJAきたみらいのブランドタマネギとして近年注目を集めているのが、「さらさらゴールド」だ。さらさらゴールドには、流通している国産のタマネギの中でも特に多くのケルセチンが含まれている。

フラボノイドの一種であるケルセチンは、抗酸化作用や抗炎症作用を持つことが知られている。農研機構食品研究部門食品健康機能研究領域の小堀真珠子研究領域長らは、2010年からケルセチン高含有タマネギの機能性研究を続けてきた。「ケルセチンは野菜や果物などに含まれているが、含有量はタマネギが特に多い。食事で摂取しているケルセチンも、タマネギが中心だ。北海道の壮瞥町の住民を対象として行った調査では、夏は緑茶とタマネギ、冬はタマネギがケルセチンの主な供給源であることが確認されている」と話すのが、小堀研究領域長だ。

小堀研究領域長が注目しているのが、認知機能に対するケルセチンの効果だ。「共同研究を続けている岐阜大学の中川敏幸教授の実験では、ケルセチンを混ぜたエサを与えたアルツハイマー病のモデルマウスや、年を取った老齢マウスの認知機能が改善することが明らかになった。一方で、ヒトを対象とする試験は国内外で報告されていなかったため、北海道情報大学とも連携して研究を進めていった」と、小堀研究領域長は研究の経緯を振り返る。

農研機構によって開発・品種登録されたクエルゴールド

2015年にはボランティアの協力のもと、ケルセチン高含有タマネギの継続摂取が認知機能に与える影響が検証された。試験に使用されたのは、農研機構によって開発・品種登録されたクエルゴールドとさらさらゴールドだ。クエルゴールドには、可食部100gあたり約75mgのケルセチンが含まれている。これは、一般的な北海道産タマネギの1.5〜2.0倍の量に相当する。流通には至っていないものの、クエルゴールドのケルセチン含有量は国産タマネギの中で最も多いことがわかっている。

試験では、「ミニメンタルステート検査(MMSE)」の点数が測定された。MMSEは一般的な認知機能の検査法で、時間や場所といった状況の認識力、記憶力、計算力などがスコア化される。試験の結果、有意差は認められなかったものの、認知機能に対すケルセチンの有効性を示唆するデータが得られた。小堀研究領域長によると、「健康な高齢者、または認知機能がやや低下している高齢者50人を対象とする試験では、11項目で構成されるMMSEの点数が、年齢で2つに分けた場合の若いグループで改善していた」とのことだ。

2019年には、認知症ではない健康な男女70人(60〜80歳)を対象とする試験が実施された。試験では、さらさらゴールドとケルセチンが含まれていない白タマネギを使用。参加者を2つのグループに分けて、それぞれの乾燥粉末を自由に料理に混ぜるなどして1日1回11gずつ、24週間摂取してもらった。11gは、中玉のタマネギ1/2個、約120g分に相当する。なお、さらさらゴールドの乾燥粉末にはケルセチンが50mg含まれているとのことだ。

さらさらゴールドの乾燥粉末(1日分11g、ケルセチンとして50mg)

試験では、MMSEのほか、iPadを用いて脳機能を評価するCADi2の点数が測定された。島根大学医学部とテクノプロジェクト(松江市、山中茂代表取締役社長)によって開発されたCADi2では、認知症に関連して起こる周辺症状である抑うつ状態を数値化することができる。

「さらさらゴールドの乾燥粉末を食べていたグループのMMSEの点数は、白タマネギの乾燥粉末を食べていたグループに比べてより大きく増加していた。CADi2のうちの気分を評価する抑うつ状態に関するスコアも、さらさらゴールドの乾燥粉末を食べていたグループは点数が改善していた。いずれの変化量においても有意差が認められている。ケルセチンの抗酸化作用や抗炎症作用などが相互に作用した結果であると見ている」と、小堀研究領域長は試験の結果について解説する。

研究の結果は2021年5月、『J Clin Biochem Nutri』にオンライン掲載された。現在、研究のレビューの準備が進められており、“ケルセチン高含有タマネギ”の機能性表示の届出を行う予定となっている。「機能性研究によって国産タマネギの付加価値を高め、輸出なども見据えて農業や関連産業の発展につなげていきたい」と、小堀研究領域長は話している。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。