近畿大学農学部の澤邊昭義准教授は、終末糖化産物「AGE」の生成を抑制する農産物の探索を進めている。未利用資源や加工食品の製造過程で廃棄される残渣も対象としており、これまでに茶葉やサフラン、カルダモンやフェンネル、ブドウの搾りかすなどの抗糖化作用を報告してきた。最新の実験では、コリアンダーシードに強い活性があることが確認されたそうだ。澤邊准教授は、健康長寿や未病につながる“高齢者用食品”の開発を目指して研究を続けている。
「抗糖化の研究を始めた15年ほど前から、未利用となっている植物や食品残渣の抗糖化活性を調べてきた。糖とたんぱく質が非酵素的に結合する糖化反応によって生成されるAGEが引き金となる病気の予防・改善に役立つ食品の開発を目的としている」と話すのは、近畿大学農学部応用生命化学科の澤邊昭義准教授だ。
AGEは、糖尿病や高血圧、それらによって進展する動脈硬化、ガンや認知症、変形性関節症や骨粗しょう症など、さまざまな病気の発症や悪化に関係することがわかっている。澤邊准教授は、「可逆的に進む糖化反応の過程で、アマドリ化合物という中間産物ができる。その後、糖化は不可逆的に進んでいき、最終的に“終末糖化産物”と呼ばれるAGEとなる。血管や組織を壊すAGEが沈着する前に、糖化反応を抑制する必要がある」と解説する。
これまでに50種類以上の植物をスクリーニングしてきた澤邊准教授は、ハーブやスパイスなどから抗糖化作用を見出した。「茶葉やサフランのほか、ワインの醸造の過程で出たブドウの搾りかすにも効果があった。簡単にいうと、糖化反応の流れを断ち切る働きがある。スパイスの抗糖化作用を調べた研究も少なくない。カルダモンやフェンネルのほか、最近ではコリアンダーシードに強い活性が認められた」と、澤邊准教授は振り返る。
コリアンダーシードの有効成分を分析したところ、リナロール配糖体が単離された。澤邊准教授によると、「コリアンダーはセリ科のコエンドロを乾燥させたスパイスだが、生葉はパクチーとして流通している。パクチーにはリナロールという特有の香り成分が含まれており、その前駆体であるリナロール配糖体がコリアンダーシードの抗糖化活性の関与成分だった。皮膚の状態に対する効果を調べた結果、シミ・シワ・たるみにつながるN−カルボキシメチルリジンというAGEの蓄積が抑えられることも確認できた」とのことだ。
一方で、AGEの生成を抑制するには、たんぱく質と結合する糖を減らす対策も有効となる。「糖質の取りすぎに気をつけたり、食後の運動を心がけたりと高血糖の予防が重要となるが、コリアンダーシードには血糖値の急激な上昇を緩やかにする働きがあることもわかってきた」と、澤邊准教授はコリアンダーシードの特性を評価する。
澤邊准教授らは現在、高齢者用食品の開発にも力を入れている。「近畿大学では『健康長寿・未病効果が期待できる新たな機能性食品の開発をめざした実践研究』として、機能性食品の探索や科学的な評価を学部横断で進めている。マイクロカプセルに機能性成分を閉じ込める技術も開発中で、例えば、動脈硬化の予防効果がある脂質で食品をコーティングするアイデアなどがある。誤嚥が増える高齢者でも食べられる栄養食品を作りたいと考えている」と、澤邊准教授は最後に話してくれた。