北海道の東部に位置する釧路市に隣接する白糠町(しらぬかちょう)では、2006年から町をあげてシソの栽培に取り組んできた。シソにはカリウムや鉄分をはじめ、ビタミンBやビタミンC、β‐カロテンや食物繊維が豊富に含まれている。β‐カロテンの含有量は、野菜の中でもトップクラスだ。シソは免疫力の働きを正常化して、アレルギーを抑制する働きがあるといわれてきた。
最近注目されているのが脳の健康への効果だ。産業振興や教育の推進など、白糠町と包括提携を結ぶ室蘭工業大学の徳楽清孝准教授ら研究チームは、シソがアルツハイマー病の予防や進行の抑制にも有効であるという研究成果を発表した。アルツハイマー病は認知症の一種で、「アミロイドβ」というたんぱく質が脳内にたまっていくことで起こる。正常な神経細胞が壊れて、記憶力や思考能力がゆっくりと低下していく病気だ。アルツハイマー病が進行すると嚥下障害を併発し、誤嚥性肺炎を引き起こす危険も高まる。
白糠町産のチリメンアオジソは、アルツハイマー病のきっかけとなるアミロイドβの凝集を抑える働きが強いことがわかってきた。徳楽清孝准教授ら研究チームが、アミロイドβが脳内にたまっていくのを抑制する物質を効率的に探す「MSHTS法」という顕微鏡を使ったシステムによって、香辛料や海藻など約200種類の植物を調査したところ、シソ科のハーブはアミロイドβの凝集阻害効果が高いことが判明。シソ科のハーブの中でも、最も優れた効果を発揮したのがチリメンアオジソだった。アミロイドβの凝集を阻害する働きが、これまで最も強いといわれてきたスペアミントの40倍の作用があることが確認されたのだ。
研究チームは、「いまのところ、チリメンアオジソに匹敵する効果の植物はないだろう」と話している。ただ、シソのどの成分が効果を発揮しているのかは、現時点ではわかっていない。今後は有効成分や作用機序の解明を進めながら、健康食品の開発についても検討していく。