徳島大学の堤理恵講師らは、徳島県で生産されている3大柑橘類の一つである「ユコウ」の高度付加価値化を推進している。これまでの機能性研究では、ユコウ果汁の整腸作用や糖代謝の改善効果をはじめ、食品保存料と同等の抗菌作用を確認。口臭や歯周病に対する効果も明らかになっており、堤講師らは、ユコウを原料とする機能性食品や化粧品のほか、ハミガキ粉や除菌剤などの開発を視野に入れて研究を続けている。
徳島県は、柑橘類の一大産地として知られている。同県の3大柑橘類は「スダチ」「ユズ」「ユコウ」からなり、国内における生産量は、それぞれ1位(15776t)、2位(4027t)、1位(500t)と報告されている。全国的に人気の高いスダチやユズが生果をはじめ、果汁やポン酢といった加工品として流通しているのに対し、ユコウの用途は限定的だった。
「幻の果実」とも呼ばれるユコウは、ダイダイとユズの自然交配種である。産地は徳島県がほぼ100%を占めており、そのうちの半数以上は上勝町で栽培されている。「ユコウはほかの柑橘類に比べて認知度の面で劣っており、果実の単価も低く設定されている。近年、生産者の高齢化が進み、生産量の減少傾向も続いていた。ユコウの生産維持と高度付加価値化を目的として、2016年から機能性研究を進めてきた」と話すのは、徳島大学大学院医歯薬学研究部の堤理恵講師だ。
プレ研究の期間に堤講師は上勝町に足を運び、 “生産者から見たユコウ”の情報を集めていった。「調査を重ねた結果、『腐りにくい。10月の収穫後、4月になっても食べられる』『熟しても木から落ちにくい』『ユコウを樹木の根元に置いておくと雑草が生えず、害虫もこない』といった声を聞くことができた。ユコウには、スダチやユズにはない抗菌性があるという仮説を立てた」と、堤講師は振り返る。
機能性研究に乗り出した堤講師は、マウスを用いてユコウ果汁の整腸作用を検証した。20匹のマウスを10匹ずつ、普通食を与えるグループと高脂肪食を与えるグループの2群に大別。さらに、それぞれのエサに加えてユコウ果汁を投与するグループ、生理食塩水を投与するグループといった5匹ずつに細分化して、4群の腸内細菌叢の変化を解析するという内容だ。
マウスを7日間飼育した結果、ユコウ果汁を添加した普通食グループ、高脂肪食グループは、腸内環境の悪化が抑制されていた。堤講師によると、「高脂肪食を与えると、通常は善玉菌である乳酸菌やビフィズス菌が減少して、クロストリジウム菌という悪玉菌が増加する。これは肥満のリスクとしても知られているが、実験では腸内細菌叢の組成は悪化していなかった。ユコウ果汁の添加群では、抗糖尿病作用のあるアッカーマンシア菌の出現も認められた」とのことだ。
続けて行われた動物実験では、ユコウ果汁の抗糖尿病作用が検証された。高脂肪食に加えてユコウ果汁を投与するマウス6匹と生理食塩水を投与するマウス6匹の食後血糖値(グルコース負荷から30分後)を比較したところ、ユコウ投与群は生理食塩水群よりも有意に低い値を示した。「ユコウ果汁の耐糖能異常の改善効果を実証できた。アッカーマンシア菌の増加などには、柑橘類の果皮に多いノビレチンやヘスペリジンとは異なるフラボノイドの関与があると見ている」と堤講師は解説する。
さらに抗菌作用を調べていくと、ユコウ果汁には、スダチ果汁、ユズ果汁よりも優れた活性があることがわかった。堤講師によると、「ユコウ果汁の抗菌作用は、食品保存料として使用されている安息香酸、酢酸と同等だった。具体的には、大腸菌やアリサイクロバチルスアシドテレストリス菌を死滅させる働きがある。50%以上の濃度のユコウ果汁は、食品保存料としての応用することも可能だ。実験では、口臭や歯周病菌に対する効果も明らかになっている」とのことだ。
一連の研究成果は、2019年に発表された。ユコウはこれまで生果として流通していなかったが、堤講師らの研究の後押しもあり、2021年には初の出荷が実現した。堤講師は現在、果汁と並行してユコウの果皮の研究も進めている。「生産者の声をもとに研究の着想を得た。感覚的、あるいは民間伝承的な話がスタートになっているが、科学的なデータが集まりつつある。ユコウの独自性を生かした機能性食品や化粧品、ハミガキ粉や除菌剤といった商品開発にも繋げていきたい」と堤講師は話している。