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玄界灘に生息する海藻の機能性を調査 抗炎症作用のあるノコギリモクを機能性食品・化粧品原料へ

佐賀県工業技術センターの柘植圭介特別研究員らは、玄界灘の松島沿岸に生息するノコギリモクという海藻の抗酸化作用・抗炎症作用を明らかにした。ノコギリモク粉末の効果を確認する動物実験では、高インスリン血症や高脂血症の改善も示唆されているという。柘植特別研究員らは、未利用資源であるノコギリモクを機能性原料として産業利用する方針で、佐賀発の健康食品や化粧品の開発を見据えて、効能効果や安全性などの検証を続けている(写真は唐津市松島沿岸のノコギリモク群落、新井章吾海藻研究所所長提供)。

佐賀県では、唐津市・玄海町の農林水産資源を活用した化粧品原料の供給、同地域への国際的な化粧品産業の集積を目指す「唐津コスメティック構想」という取り組みや、佐賀県産の農林水産資源を用いた機能性食品の開発を目指す「さが機能性・健康食品開発拠点事業」が推進されている。

「北は玄界灘、南は有明海に面している佐賀県。四季を通して楽しむことのできる“海の幸”は県の売りの一つだが、近年は漁業者の収益悪化の傾向が続いていた。消費量の減少、資源量の減少など、いくつかの理由が挙げられている。今後は、高付加価値化による収益の向上や安定化がますます重要になる」と話すのは、佐賀県工業技術センター食品工業部の柘植特別研究員だ。

松島沿岸に生息する海藻を採集して機能性の検証を進めた

玄界灘には、100種類近くの海藻が生息すると報告されている。柘植特別研究員らは2017年5月、松島沿岸の水深 10 m 以浅から、褐藻17種、アオサ藻2種、真正紅藻4種を採集。アラメ、クロメ、ノコギリモク、ワカメ、アオワカメ、アカモクなど、計23種類の海藻の抗酸化作用と抗炎症作用を検証した。

柘植特別研究員によると、「乾燥粉末にした海藻の機能性を見ていったところ、抗酸化作用はポリフェノール類を多く含むクロメ、アラメ、ノコギリモク、ヨレモクといった褐藻類が強く、抗炎症作用はタマイタダキ、ケヤリ、ノコギリモクが強かった。抗炎症作用はポリフェノール類やフコキサンチンによるものと見ていたが、各海藻中の含有量と活性に相関が認められず、それらとは異なる成分の関与が推察された」とのことだ。

ノコギリのような葉を持つことが名前の由来とされるノコギリモク

柘植特別研究員は、ノコギリモクに絞って抗炎症成分の特定を進めていった。「味に難があり、食材として価値の低いノコギリモクは未利用資源となっているのが現状だ。機能性原料としての用途を確立できれば、漁業者の新たな収益になりうる。生育状況が良好で資源量も多く、新たに産業利用できる可能性が高いと考えた」と、柘植特別研究員は振り返る。

成分分析を進めた結果、抗炎症作用には「メロテルペノイド」という物質の一種である「サルガヒドロキノン酸(SHQA)」と、SHQAが時間の経過によって変質してできる「サルガキン酸(SQA)」が関与していた。柘植特別研究員は、「SHQAには、抗炎症作用がすでに報告されていたSQAを上回る活性があることがわかった。肥満モデルのマウスにノコギリモク粉末を投与する実験では、MCP-1という炎症性サイトカインの減少をはじめ、高インスリン血症や高脂血症の改善効果などが示唆されている」と解説する。

産業利用が実現すれば、ノコギリモクを水揚げした後の藻場にアカモクを植えつけて収穫するという計画もあるそうだ。「フコキサンチンが豊富に含まれるアカモクは、食材としての需要も高い。『松島のアカモクは質がいい』という評価を市場で受けている。二毛作によってアカモクの生産・出荷量も増やせれば、収益の面でさらなる効果が期待できる。全国的な問題となっている磯焼け対策なども含めて、地域で知恵を出していくのが重要だ」と、柘植特別研究員は話している。

今後は、ノコギリモクを機能性原料として利用するために、効能効果や安全性のさらなる検証を進めていく。なお、採集を続けてきた玄界灘の海藻は、2019年には78種類になった。柘植特別研究員によると、「ノコギリモクのほかにも、ウミウチワなど産業利用できそうな海藻が新たに出てきている。唐津コスメティック構想を推進するために産学官で設立されたジャパン・コスメティックセンターの会員企業とのマッチングを進め、佐賀発の商品開発を後押ししていきたい」とのことだ。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。

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