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対馬の特産品・対州そばの葉を有効活用!豊富に含まれるルチン、脂質代謝改善をサポート 長崎県大

長崎県の対馬を代表する特産品“対州そば”には、ルチンというフラボノイドが一般的なそばよりも多く含まれている。長崎県立大学の田中一成教授は、大量に廃棄されてきた対州そばの葉の機能性研究を進めてきた。未利用資源の新たな活用法を模索する一連の取り組みは、離島の農業振興に繋がる可能性を秘めている。

対馬市特産の対州そば

日本そばのルーツは、そばが伝来した長崎県対馬市にある。別名「対州」と呼ばれる対馬では、そばが伝わった当時の原種に近い“対州そば”が古くから栽培されてきた。小粒で風味がとても強く、苦味があるのが対州そばの特徴だ。島を代表する特産品は2018年、「GI」と呼ばれる地理的表示保護制度に登録されたものの、対馬市における一次産業の衰退は続いている。島からの人口流出に伴い、耕地のおよそ33%を占めていた対州そばの栽培面積も減少しているという。

解決の糸口として期待されているのが、長崎県立大学看護栄養学部栄養健康学科の田中一成教授による対州そばの機能性研究だ。「機能性食品として対州そばを売り出したい」と、移住してきた市民らによって結成された對馬次世代協議会(長崎県対馬市、須澤佳子理事長)から相談を受けたのがきっかけで、2016年に研究は始まった。30年以上にわたって地域に根ざした食品の研究を続けてきた田中教授の知見が島には必要だった。

對馬次世代協議会のメンバー

「對馬次世代協議会が対州そばの葉を青汁に加工して商品化していたのがヒントになった」と話すのが、対州そばの“葉”に目を着けた田中教授だ。対州そばの葉の成分分析を進めたところ、100㌘あたりに約4000㍉㌘のルチンが含まれていることがわかった。ルチンはフラボノイドの一種で、抗酸化作用や脂質代謝改善作用などがあると報告されている。

「一般的なそばの葉に含まれるルチンの含有量は50〜100㍉㌘程度。ルチンを豊富に含む対州そばの葉には、脂質代謝改善作用などがあると思った。現在、青汁として活用されている対州そばの葉はわずかだ。大量に廃棄されてきた部位に機能性が認められれば、対州そば全体の収益性が高まる」と、田中教授は研究の狙いを解説する。

対州そばの葉の機能性分析のようす(田中教授提供)

対州そばの葉の脂質代謝改善作用は、ラットを用いた動物実験で検証された。高脂肪食を与えるグループと、対州そばの葉を混ぜた高脂肪食を与えるグループに分け、肝臓におけるコレステロール濃度を調べるという内容だ。対州そばの葉の摂取群は、高脂肪食を対州そばの葉に置き換える割合が2%のエサと5%のエサと、さらに2群に分けられた。実験は、それぞれのエサを自由に摂取できる環境のもと、4週間にわたって実施された。

その結果、対州そばの葉を混ぜたグループのコレステロール濃度は、高脂肪食のみを与えたグループよりもが低いことがわかった。対州そばの葉を混ぜたグループを比較すると、5%摂取群のコレステロール濃度のほうが2%摂取群よりも低いという結果も得られた。さらに、ラットの糞を分析したところ、対州そばの葉を混ぜたグループにおいては、コレステロールの代謝物にあたる総ステロイドの排泄量の有意な増加が確認された。

青汁のほか対州そばを活用した新たな商品の開発にも期待がかかる

これらの結果について田中教授は、「ルチンがコレステロールの合成を抑制したことが示唆された。また、対州そばの葉に豊富に含まれる不溶性食物繊維がコレステロールの排泄量を増やしたことも、総ステロイドの排泄量増加に関与していると考えられる。対州そばの葉を食品として摂取することで、さまざまなメカニズムを通じたコレステロール値の改善が期待できる」と考察している。

今回の実験結果を受け、ヒトを対象とする試験も視野に入ってきた。「長崎県に赴任した1985年から地域資源を素材にした研究を続けてきた。当時はあまり注目されていない研究テーマで、限られた資金や設備で可能な研究を模索してきた」と振り返る田中教授。離島の資源を余すことなく活用して新たな産業を育みながら、人々の健康的な暮らしをサポートしていく方針だ。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。