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大麦糠ポリフェノールの抽出法を最適化 酵素処理技術を用いた新商品開発を後押し 長崎県

農産物や海産物から得られる機能性成分は、製法ごとに異なることが知られている。長崎県工業技術センターでは、「プロテアーゼ」という酵素を用いて処理することで、大麦糠からポリフェノールなどの有用成分が効率的に抽出されることを確認。最適な酵素濃度や反応時間も明らかになった。一連の研究は商品化に結びつき、現在、大麦糠エキスを主原料とする「大麦ポリフェノール」「大麦ベータグルカン」が長崎県内の企業から販売されている。

大麦糠エキスを原料とする「大麦ポリフェノール」「大麦ベータグルカン」

食生活の欧米化などで生活習慣病が増加する中、食による疾病予防のニーズが高まりを見せている。長崎県工業技術センターは、健康の維持・増進に役立つ食品を開発に応用するために、漬物・果物・発酵食品など県の特産品から分離した約600の乳酸菌のライブラリー化が進めてきた。そのほか、酵素処理技術を用いた調味料や菓子素材の開発にも注力。2017年以降、乳酸発酵や酵素処理によって大麦糠から機能性成分を効率的に抽出する製造方法が検証されてきた。

「近年、地域を売りにした機能性食品が増えている。機能性食品には健康効果の前に、安全性の確保が求められる。原料の産地が明らかである地域発の商品のニーズは今後、ますます高くなっていくはずだ。私たちは、発酵や酵素処理を用いた機能性成分の抽出法についても研究している」と話すのは、長崎県工業技術センター食品・環境科の玉屋圭専門研究員だ。玉屋専門研究員は、同センターで機能性成分分析、代謝系調節機能、抗酸化機能、美白・美肌機能などの研究を手がけている。

大麦糠も、玉屋専門研究員が研究している素材の一つだ。2015年には、「サチホゴールデン」という大麦の糠の特性が分析された。伊東精麦所(長崎県諫早市、伊東清一郎社長)で出た大麦糠を用いて、乳酸発酵物、酵素処理物を調製。それぞれの機能性成分を検証していくという内容だ。なお、発酵には長崎県のライブラリーに保存されている漬物由来・果物由来・米麹由来・酒粕由来の乳酸菌株が、酵素処理には市販のプロテアーゼ・グルコアミラーゼ・アミラーゼ・ペクチナーゼ・セルラーゼという酵素が使用された。

乳酸発酵の作用を分析した結果、発酵前の大麦糠では6.0だったpHはすべての乳酸発酵物で低下していることがわかった。玉屋専門研究員によると、「ポリフェノールとGABAを調べたところ、総ポリフェノール量はいずれも発酵前の19 mg/100mLより多くなっていた。GABAの増加はより顕著だった。発酵前は0.3 mg/100mLだったのに対し、すべての酵素処理物でGABAは3倍以上に増えていた。大麦糠の発酵には酒粕由来の乳酸菌が最適であることもわかり、総ポリフェノール量は36 mg/100mL、GABAは1.5 mg/100mLに増えていた」とのことだ。

酵素処理物の分析では、エタノール抽出とほぼ同等に大麦糠エキスを生成できるのは酵素処理であることがわかった。具体的には、大麦糠エキスの生成率はエタノールでは15%程度だったのに対し、酵素処理では20%以上に増えることが確認された。一方で、機能性成分であるポリフェノールの含有量を見ると、エタノール抽出液が960mg/100gと最も多かったのに対し、酵素処理物は270〜730mg/100gという結果だった。

この結果について玉屋専門研究員は、「エタノールを用いると、主にポリフェノールが抽出されることがわかっている。酵素処理の場合はさまざまな成分が同時に出てくるため、大麦糠エキスの生成率は高いものの、ポリフェノールは少なくなっている。ただ、食品の製造ではエタノールなどの有機溶媒を用いるのはコスト面、安全対策設備などで大きな負担となる。ポリフェノール量だけで優劣はつけられない」と解説する。

玉屋専門研究員は、最も多い730 mg/100gのポリフェノールが得られるプロテアーゼを用いて酵素処理物を試作した。酵素濃度や反応時間などを最適化していった結果、酵素処理物の総ポリフェノール含有量は1200 mg/100gと大幅に増加した。玉屋専門研究員によると、「機能性成分を分析した結果、抗酸化作用のあるフェルラ酸、カテキンやプロアントシアニジンを含むフラバノールも、それぞれ30 mg/100g、140 mg/100gずつ確認された」とのことだ。

ポリフェノールが豊富な「大麦ポリフェノール」と水溶性食物繊維が豊富な「大麦ベータグルカン」

これらの結果を受けて、伊東精麦所は商品開発に乗り出した。2020年には、大麦糠エキスを主原料とする「大麦ポリフェノール」「大麦ベータグルカン」として発売された。「地域資源の活用は重要なテーマだ。今回の取り組みでは、酵素処理によって機能性成分を増やせることがわかってきた。ほかの素材にも応用できる可能性がある。今後も長崎発の魅力的な商品の開発をサポートしていきたい」と、玉屋専門研究員は最後に話してくれた。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。

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