福島大学の升本早枝子准教授らは、リンゴ果汁から抽出した高分子ポリフェノールの肥満予防効果を明らかにした。体内に吸収されやすい低分子ポリフェノールによる脂質代謝改善作用などは知られていたが、高分子ポリフェノールの働きは不明だった。研究では、リンゴ高分子ポリフェノールが腸管のバリア機能を高め、炎症物質の流入に伴う慢性炎症を抑制することによって肥満予防効果が得られることがわかった。現在、肥満や糖尿病との関連が指摘されている認知機能低下の予防効果についても検証が進められている。
近年、腸内細菌叢と生活習慣病の関連が明らかになりつつあり、腸内環境の改善による肥満や糖尿病などの予防・改善に関する研究が国内外で進められている。福島大学食農学類食品科学コースの升本早枝子准教授は、野菜や果物など農産物に含まれるポリフェノールが腸内細菌に与える影響について研究してきた。
「ポリフェノール類は現在、野菜や果物から約6000種類が単離されている。100〜500程度の低分子から20000以上の高分子まで、広範囲にわたる分子量のポリフェノールが存在することがわかっている。ケルセチンやカテキンといった吸収率の高い低分子ポリフェノールの生体調節機能が明らかになっているのに対し、高分子ポリフェノールは健康効果があるとされながら、生体内における働きについては不明な点が多かった」と話すのが、升本准教授だ。
高分子ポリフェノールには、リンゴやブドウに含まれるプロシアニジン類、ウーロン茶や赤ワインに含まれるタンニン類などが挙げられる。当時、農研機構に所属していた升本准教授は、「腸管から体内に吸収されない高分子ポリフェノールは、腸内環境を介したメカニズムで健康効果を発揮しているという仮説を立てた」と、今回の研究の経緯を振り返る。
リンゴに含まれるプロシアニジン類は、生体利用性の高い低分子プロシアニジン(1〜4量体)と、生体利用性の低い高分子プロシアニジン(5量体以上)で構成されている。升本准教授によると、「リンゴのプロシアニジンの多くは、高分子プロシアニジンであることがわかっている。『ふじ』というリンゴの果汁から抽出した低分子プロシアニジンと高分子プロシアニジンを用いて、特性の違いを検証していった」とのことだ。
動物実験に着手した升本准教授は、通常のエサと水を与えるグループ、高脂肪・高ショ糖のエサと水を与えるグループ、高脂肪・高ショ糖のエサと低分子プロシアニジンを与えるグループ、高脂肪・高ショ糖のエサと高分子プロシアニジンを与えるグループの4群にわけたマウスを20週間飼育した。なお、プロシアニジンは、それぞれ0.5%の濃度となるように水道水に溶かして、マウスが自由に摂取できるようにした。プロシアニジンを与えないグループも同様に、自由に水を飲める環境で飼育した。
その結果、高脂肪・高ショ糖群と比較して、低分子プロシアニジン群と高分子プロシアニジン群の体重と肝臓重量の増加は有意に抑制されていることが確認された。また、腸内細菌叢を解析した結果、肥満の指標とされている「Firmicutes 門/Bacteroidetes門比」が高脂肪・高ショ糖群で上昇したのに対し、高分子プロシアニジン群では有意に低下していることがわかった。
「腸内細菌叢の解析をさらに進めたところ、腸管のバリア機能を増強すると報告されているアッカーマンシア属菌の有意な増加が確認された。実際に、腸管バリア機能に関係する遺伝子の発現が増加していることもわかった」と、升本准教授は解説する。
腸管バリア機能の増強は、体内における慢性炎症の改善につながるそうだ。升本准教授によると、「炎症反応は肥満の一因であることがわかっている。他方、肥満になると炎症性サイトカインの産生が亢進する。腸管バリアが機能すれば、炎症の原因物質であるLPSの流入を防げる。実際に、実験では高分子プロシアニジン群の血中LPSのほか、TNF -αやIL-6という炎症性サイトカインが、高脂肪・高ショ糖群に比べて有意に少ないことが確認された」とのことだ。
低分子プロシアニジンには見られない高分子プロシアニジン独自の機能性が確認され、研究成果は2017年に発表された。現在、升本准教授は高分子プロシアニジンによる腸内細菌叢の改善と認知機能低下抑制効果についても研究を進めている。
「日本は果物の消費量が少ない。機能性研究で、健康の維持・増進と消費拡大の後押ししていきたい。なお、リンゴの果肉には皮を含めた全体の約7割のポリフェノールが集中している。そのうちの7割ほどがプロシアニジンだ。リンゴだけ取ればいいというものではないが、野菜や果物を食べる習慣は大切だろう」と、升本准教授は最後に話してくれた。