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すりおろした本ワサビの抗菌効果に注目!災害緊急時の感染症予防に家庭の食品を利用 福岡県立大

福岡県立大学看護学部の芋川浩准教授は、古くから食品の腐敗防止に使われていた本ワサビの抗菌効果の検証を進めている。2019年には、すりおろした本ワサビによって感染症の原因にもなりうる大腸菌や表皮ブドウ球菌の増殖を抑制できることを明らかにした。災害緊急時など医薬品が手に入りにくい状況下では、消毒液の代替品として使用できる可能性があるそうだ。

本ワサビは、アブラナ科ワサビ属の日本原産の多年生植物。飛鳥時代から栽培されていた記録が残されており、江戸時代後期には寿司の薬味として普及した。低温保存が難しい江戸時代などに、生鮮食品の臭みを抑えつつ、腐敗による食中毒を避けるために本ワサビが利用されていたとされている。

“先人の知恵”に注目して本ワサビの研究を続けているのが、ショウガやニンニクなど身近な農産物の抗菌効果を研究テーマの一つとしている福岡県立大学看護学部の芋川浩准教授だ。「災害発生時などには、薬の入手が極めて困難となることが想定される。そのような災害緊急時の感染症予防対策のために、一般家庭にある食品の抗菌効果の利用価値を検証している」と、芋川准教授は研究の狙いを語る。

芋川浩准教授は緊急時の感染症予防対策のために家庭にある食品の抗菌効果を調べている

すりおろした本ワサビには、「アリルイソチオシアネート」という辛味成分が含まれている。アリルイソチオシアネートは、本ワサビのほかダイコンやカラシなどアブラナ科の植物に含まれるシニグリンという成分が加工時の物理的衝撃で変化して生まれる成分だ。芋川准教授によると、「アリルイソチオシアネートには、カビや酵母など真菌類に対する抗菌効果がある。多くの家庭に常備されているチューブ入りの本ワサビを、非常時に抗菌剤として応用できないかと考えていた」とのことだ。

2019年、芋川准教授はすりおろした本ワサビが感染症予防に役立つ可能性を検証した。実験には、常在菌の一つである大腸菌を塗布した培地を用いた。培地には、すりおろした本ワサビ0.3gを直接置いた場合、液体量0.06mlに調整したすりおろした本ワサビを浸み込ませたろ紙を置いた場合、抗生剤0.03mgを浸み込ませたろ紙を置いた場合、滅菌水を浸み込ませたろ紙を置いた場合の計4条件に分け、37℃で約17時間培養された。培養終了後、それぞれの培地について、菌が増殖できない範囲を示す阻止円の直径を測定した。

研究の結果、阻止円の直径は、抗生剤を浸み込ませたろ紙を置いた場合は約33mmだった。一方、すりおろした本ワサビを直接置いた場合の阻止円の直径は約31.2mm、本ワサビを浸み込ませたろ紙を置いた場合は約15.5mmだった。滅菌水を浸み込ませたろ紙を置いた場合、阻止円は形成されなかった。

さらに、細菌を表皮ブドウ球菌に替えて同様の実験を行った。その結果、抗生剤を浸み込ませたろ紙を置いた場合は直径が約11mmの阻止円が形成された。一方、すりおろした本ワサビを直接置いた場合の阻止円の直径は約33.8mm、本ワサビを浸み込ませたろ紙を置いた場合は約19.8mmだった。滅菌水を浸み込ませたろ紙を置いた場合、阻止円は形成されなかった。

芋川准教授は、「すりおろした本ワサビ0.3gの大腸菌に対する抗菌効果は抗生剤0.03mgと同等だ。また、表皮ブドウ球菌に対する抗菌効果は前述の抗生剤より約1.8倍から約3倍も強力である。本ワサビを浸み込ませたろ紙を置いても効果があったため、水溶性成分に強い作用があると見られる。家庭に常備されているチューブ入りの本ワサビは、災害時などには消毒薬の代替品として使用できるかもしれない」と解説する。

すりおろした本ワサビを市販の茶こし袋でろ過した後、本ワサビエキスを水で薄めてから脱脂綿に浸み込ませて塗擦したり、エキスを浸み込ませたフキンでふき取ったり、さらには家庭にあるお酒に本ワサビエキスを加えて使う形などが想定されるとのこと。さらに芋川准教授は、本ワサビを原料とする傷口用のスキンクリームの開発も検討しているそうだ。

地震や土砂崩れなどの災害時には、国内の中山間地域・沿岸地域・島嶼部の集落の約3割に孤立するリスクがあるといわれている。実際に、2004年の新潟県中越地震では、中山間地域の61地区が孤立したという報告がある。災害時の孤立が懸念されている地域は、いずれも高齢化の進む地域だ。免疫力が低下している高齢者は、感染症が重症化するリスクが高い。そのため、各地の自治体は災害時の感染症対策を進めている。最後に芋川准教授は、「知らない医薬品の使用を拒否する高齢者は少なくないが、身近にある本ワサビなら受け入れてもらえるのではないか」と話してくれた。

長尾 和也

鳥取県出身。ライター。

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長尾 和也