神奈川県愛川町では、トチュウによる町おこしが進められてきた。2015年には、碧山園(神奈川県愛甲郡愛川町、安間智慧子社長)で開発されたトチュウ茶を「愛川ブランド」として認定。現在、“愛川発の健康茶”の認知拡大に力を入れている。ブランド力の強化には、栄養成分や健康機能性といったデータの蓄積も不可欠だ。研究・開発をサポートしてきた神奈川県立産業技術総合研究所の瀬戸山央主任研究員に話を聞いた。
トチュウは中国原産の落葉高木。「樹皮」は五大漢薬の一つとして、古くから降圧・利尿・強壮・鎮痛に用いられてきた。日本では、1993年に健康食品として「葉」を原料とするトチュウ茶がブームになった。トチュウの葉にはイリドイド配糖体をはじめ、クロロゲン酸類やフラボノイド類といったポリフェノールが豊富に含まれており、抗酸化活性・抗糖化活性・血圧降下作用・抗肥満作用などがあることが報告されている。
瀬戸山央主任研究員は碧山園と共同で、地元産トチュウの独自性について検証を重ねてきた。碧山園はトチュウ葉の生産・加工・販売を一貫して手がけている企業で、2015年には、同社が開発したトチュウ葉茶「碧山」は「愛川ブランド」として愛川町から認定されている。働き手として高齢者と障害者を受け入れるほか、「愛川杜仲研究会(神奈川県愛甲郡愛川町、吉川伍郎会長)」の立ち上げに携わるなど、碧山園は地元コミュニティとの関わりを大切にしてきた。
愛川ブランドとして認定されたトチュウ茶だが、開発の裏には瀬戸山主任研究員らのサポートがあった。一般的に、トチュウの葉の機能性成分は夏にピークとなり、秋冬には減少するといわれている。瀬戸山央主任研究員によると、「6〜12月にトチュウ葉を収穫している碧山園から相談を受けたのが研究のきっかけで、成分分析を実施することになった。2010年に季節変動を調べた結果、イリドイド類の一種であるゲニポシド酸含量は6月から8月にかけて最大となり、9月に急激に減少することがわかった」とのことだ。
2012年には、愛川町産トチュウ葉の総ポリフェノール含量・総フラボノイド含量のほか、抗酸化活性・抗糖化活性といった生理活性の季節変動が検証されている。7月に収穫された葉を「夏トチュウ葉」、11月に収穫された葉を「秋トチュウ葉」として、瀬戸山央主任研究員はそれぞれの項目を測定していった。
実験の結果、総ポリフェノール含量と総フラボノイド含量は、夏トチュウ葉が秋トチュウ葉の約1.7倍であることがわかった。一方の生理活性については、活性酸素消去能によって抗酸化活性を、AGEsの生成抑制レベルによって抗糖化活性を確認。活性酸素消去能は夏トチュウ葉が秋トチュウ葉の約2.0倍だったのに対し、AGEsの生成抑制作用は夏トチュウ葉が秋トチュウ葉の約1.1倍という結果が得られた。
瀬戸山研究員は、「秋トチュウ葉の抗酸化活性は夏トチュウ葉に劣るが、抗糖化活性は同等だった。トチュウ葉の抗糖化活性成分としてポリフェノールのクロロゲン酸類やルチンというフラボノイド類が報告されているが、どちらの物質も秋トチュウ葉のほうが少なかった。抗糖化作用をもたらしているのは別の物質であると考えられる。抗糖化成分が新たに見つかるかもしれない」と話している。
愛川町では、トチュウ葉の栽培に遊休農地が活用されている。高齢者の農業経験をもとに、愛川町に適した栽培方法を見出した。トチュウ葉の栽培技術を次世代に引き継ぐことも意識されており、碧山園が中心となって挿し木の研究や植樹に地元の中高生を巻き込んでいる。機能性研究によって付加価値を高めてきたトチュウ葉。愛川町のコミュニティに支えられ、町の産業として定着しつつある。