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ブタ耳コラーゲンが原料の“溶けるパック”に保湿効果!低付加価値素材を活用した新商品を産学で開発

2019年2月、前橋工科大学工学部の星淡子准教授は、低付加価値素材であるブタの耳から抽出したコラーゲンの保湿効果をヒト試験で明らかにした。試験では、ブタ耳コラーゲンのみで作成されたシートを使用。現在、肌になじみやすい高機能美容パックの商品化が進められている。群馬県内の企業とともに、養豚の新たな可能性を追求していく方針だ。

群馬県は養豚が盛んで、鹿児島県、宮崎県、千葉県に次ぐ全国4位の飼養頭数を誇る。飼養頭数の半分以上を占めている前橋市は、県内における一大産地だ。前橋市は、若者の地元定着率の向上や移住者の増加を目的として、新産業の創出に奔走している。

群馬県は養豚が盛んで全国4位の飼養頭数を誇る。写真はエーアンドブイ企画が運営するショップ

畜産物由来コラーゲンについて研究している前橋工科大学工学部生物工学科の星淡子准教授は2014年以降、ブタ耳から抽出したコラーゲンの活用法の検討を進めてきた。星准教授によると、「エーアンドブイ企画(群馬県前橋市、林智浩社長)の林きみ代会長から、付加価値の低い骨・皮・耳といった部位を活用した商品化について相談された。耳は一頭から取れる量が比較的少ない部位ではあるが、弾力性という特性を活かした機能性素材として利用できるのではないかと考えた」とのことだ。

一方、研究パートナーの林会長は、群馬県内最大の養豚会社である林牧場(群馬県前橋市、林篤志社長)の創業者一族の一人。前橋産豚肉の加工と加工食品の販売、飲食店の経営などを手がけるエーアンドブイ企画は、林牧場のグループ会社だ。「林牧場では年間約30万頭のブタを出荷しているが、低付加価値部位の廃棄量が多いという課題を抱えていた。廃棄を減らして、ブタの命を無駄なく活用したいと考えてきた。地元に新たな雇用が生まれる可能性も秘めている」と、林会長は根底にある想いを語る。

依頼を快諾した星准教授は、ブタ耳からコラーゲンをはじめとした生体成分を抽出し、基礎的な生化学データの解析を行った。その結果、耳から抽出したコラーゲンは優れた粘弾性を持つことがわかった。また、細胞の足場として使用したさい、細胞の増殖を促進させる効果が高いことも確認された。

ブタ耳コラーゲンは保湿力に優れている

コラーゲンの化粧品素材としての実用化に向け、星准教授はブタ耳コラーゲン100%のシートを作成。肌になじみやすい高機能な美容パックの開発に着手した。「2015年には、ヘアレスマウスを対象とする実験で、ブタ耳コラーゲンによる皮膚の水分蒸散量の抑制効果を示唆する結果を得た。純度が高く、肌になじみやすいコラーゲンの高機能美容パック開発の手応えをつかんだ」と、星准教授は振り返る。

2018年12月には、40〜60歳代の女性10人を対象としたヒト試験が実施された。精製したブタ耳コラーゲンのパックを16日間、就寝前の洗顔後に目元へ貼ってもらい、保湿効果が検証された。

試験期間終了後、肌の違和感が見られてドロップアウトした2人を除く8人のデータが分析された。目元の蒸散量・肌弾力・表皮水分量を試験開始前の数値と比較した結果、7人の蒸散量が有意に減少。また、5人の肌弾力が有意に増加していた。表皮水分量には差がなかった。

星准教授は、「数値が改善した被験者の皮膚を拡大鏡で撮影すると、細かく、キメの整った肌が確認された。皮膚の保湿力の改善に伴う変化と考えられる。若々しい肌を保つには角質層の水分を維持することが大切だ」と解説する。

ブタ耳コラーゲンを使用した化粧品の開発が進められている

機能性の解明に向けて、現在、複数の大学や研究機関との間でブタ耳コラーゲンの共同研究の準備が進められている。「安価なブタ耳を高機能化粧品の原料や生体材料、生化学的試験のための培養材料として供給できるようになれば、継続的に購入しやすい価格帯の商品ができるのではないか」と、星准教授は今後の展望を語る。

商品化では、前橋市における雇用の創出が重視される。林会長によると、「過去にはブタ皮のバッグの商品化を検討したこともある。試作品ができたものの、前橋市に生産拠点を作れないことがわかってプロジェクトを断念した。ブタ耳コラーゲンを使用した化粧品開発については、地元に生産拠点を作る見通しが立った」とのことだ。

群馬県の気候は長い日照時間と乾燥した風が特徴で、県内には乾燥肌の悩みを抱える女性が少なくないそうだ。星准教授は、研究に先立って実施したアンケート調査で、県内の女性が美容商品の保湿効果に対する高い関心持つ実態をつかんでいる。ブタ耳コラーゲンの研究が、地元のニーズに根ざした新産業を芽吹かせようとしている。

長尾 和也

鳥取県出身。ライター。