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徳島伝統の阿波晩茶、腸まで届く乳酸菌の特性活かし新たな特産品の開発目指す 漬物のふるさと復興へ

四国大学の岡崎貴世教授は、徳島県で健康茶として親しまれてきた阿波晩茶のプロバイオティクスについて研究を続けている。細菌に関する専門知識を活かし、現在、学生とともに新たな発酵食品を開発中だ。地域活性化にも繋がる取り組みについて、岡崎教授に話を聞いた。

阿波晩茶は「後発酵茶」に分類される茶で、徳島県上勝町と旧相生町(現・那賀町)が主な産地。大釜で煮た茶葉を大きな木の桶に詰め込み、煮汁を加えて漬け込んで乳酸発酵させるのが特徴だ。さわやかな酸味が印象的で、生産者ごとに風味は異なる。

阿波番茶の製造に使われる「茶桶」と呼ばれる木の桶

阿波晩茶の歴史は古く、9世紀ごろに弘法大使によって伝えられたといわれている。「山間の濃密なコミュニティの中で脈々と受け継がれてきた阿波晩茶は、徳島県民の思い出の味だ。昔は、母がヤカンで煮出した阿波番茶を飲ませてくれていた」と話すのが、四国大学生活科学部の岡崎貴世教授だ。

阿波晩茶の製造には、乳酸菌は欠かせない。乳酸菌には血圧降下作用や血中コレステロール低減作用といった生活習慣病の予防・改善効果や、花粉症をはじめとする抗アレルギー作用など、さまざまな機能性があると報告されている。「乳酸菌の保健効果に注目しており、阿波晩茶と腸内環境の関係について研究したいと思った」という岡崎教授は2017年、阿波晩茶の消化管内における作用の解明に乗り出した。

阿波番茶は健康茶として徳島県で古くから親しまれてきた

2018年の日本調理科学会大会では、阿波晩茶の漬け込み液から分離したラクトバチルス・プランタラム菌という乳酸菌の人工消化液通過試験の結果が発表された。岡崎教授は、漬物に用いられる植物性乳酸菌である分離菌が人工胃液中で3時間生存すること、人工腸液中でも増殖することを確認。「阿波晩茶由来の乳酸菌は、腸において健康機能性を発揮するプロバイオティクスとしての役割を果たす可能性がある」と報告した。

今後、ラクトバチルス・プランタラム菌など、阿波晩茶由来の乳酸菌が腸内環境をどのように改善していくか、検証を進めていく予定だ。阿波晩茶の漬け込みシーズンである7月には、次の実験のためのサンプル収集をすでに終えている。

“阿波番茶漬物”の開発にも挑戦中。写真は鳴門金時(左)とレンコン(中・右)

一連の研究は、新たな特産品の開発に繋がる可能性を秘めている。岡崎教授は管理栄養士養成課程の学生とともに、阿波晩茶由来の乳酸菌を用いてナスやキュウリ、レンコンやサツマイモ(鳴門金時)などの漬物づくりにも挑戦してきた。

「食品開発は専門外なので苦労したが、最終的にはおいしい漬物ができた。優秀な学生や良質な阿波晩茶を作っている生産者の協力あってのものだ。今後、商品化を進めていくには、調理や加工の専門家の力が必要になる」と岡崎教授は話しており、健康機能性のある発酵食品の開発を実現するための協力者を求めている。

阿波晩茶の主な産地である上勝町と那賀町では、平均年齢65歳と生産者の高齢化が進む。茶摘みに人手が足りず、阿波番茶の生産農家は現在、数えるほどに減少しているそうだ。一方で、日本ではめずらしい後発酵茶の伝統にひかれた若者が後継者として名乗りを挙げるなど、希望の光も見えてきた。

生業としての伝統を承継する動きをさらに広げていくためには、市場拡大の展望と、商品の高付加価値化が不可欠となる。徳島県はかつて「漬物のふるさと」を標榜していた。実際に、昭和までは日本一のたくあん生産量を誇っていた歴史がある。岡崎教授らの取り組みによって、古くから親しまれてきた「阿波たくあん」をはじめとする漬物のブランドイメージを取り戻すことができれば、経済効果は阿波番茶の生産者だけでなく幅広く農家に波及していく。伝統の衰退から栄光への逆転劇が待ち望まれている。

日本の身土不二 編集部

“機能性研究”という切り口で、農産物・海産物といった地域資源の高度付加価値化、ゼロエミッションの取り組みを取材しています。